・ 初めて「養育費」のことを調べたがよく分からない
・ 養育費で考えなければならない問題の全体像を知りたい
お子さんがいる方が離婚を考える場合、養育費の問題は避けて通れません。
大まかに「養育費が支払われる」ということは分かっていても「どのように金額を算定するのか」、「養育費はいつまで支払われるのか」、「公正証書や調停をしなければならないのか」など、分からないことは次から次に出てきてしまうのではないでしょうか。
このように、養育費の問題は考えなければならないことが多いため、残念ながら一挙に全てを理解することはできません。
そこで、このページでは、養育費に関連する問題について、「そもそも養育費とは何か?」というところから「支払いがなかった場合の回収方法」まで、養育費に関連する問題を広く解説していきます。
このページを読むことで、養育費の問題の全体像をつかめるようになっています。
このページは、全体像を大まかにつかむことを目的としていますので、細かい解説は省いています。
詳しい解説をご希望の方は、以下のページをご覧ください。


養育費とは

「養育費」とは、未成熟の子どもが自立し、自分で生活できるようになるまで養育するために必要とされる費用のことを言います。
具体的には次のようなものがあてはまります。
- 衣食住に必要な生活費用
- 幼稚園や小中学校などの教育にかかる費用
- 医療費(高額な医療費は除く)
- 習い事や塾の費用
養育費は、権利者(親権者として子どもを養育している方の親)が、義務者(離れて暮らしている方の親)に請求します。
養育費には、「自分と同程度の生活を維持できる位の金額」を支払う義務、つまり「生活扶助義務」があるとされています。
そのため、養育費は余裕があるときに払えるだけ払えばよいというものではありません。
離婚する際、未成年者の子がいる場合は親権をどちらが持つのかを必ず決めなければなりません。その際、今後どちらの親と子どもが暮らしてくのか決め、それに伴って養育費も決めていくことが多いです。

養育費の金額を決めないまま離婚をすることは可能ですし、決めないまま離婚をされている方も少なくありません。
しかし、離婚をした後に養育費の協議をするとしても、「離婚後に相手の居場所が分からなくなってしまった」、「相手の猛烈な反発があって、いつまでたっても話合いが付かず、養育費がずっと支払われない」という事態もありえます。
ですので、離婚に際しては養育費の金額を決めておくこと、可能であれば公正証書を作成しておくことを強くお勧めします。
養育費の相場は?どのように算定する?


養育費の「相場」はない
よく、「養育費の相場はいくらくらいですか?」という質問を受けます。
しかし、残念ながら「相場」というものはありません。
なぜなら、養育費の金額は、この後解説するように、双方当事者の収入・子の人数、年齢によって決まりますが、これらの事情は家庭それぞれで異なるので、「(一般的な)相場」のようなものが出せないのです。
養育費の算定方法
養育費は、「月●万円」のように、月額の金額を決めます。
金額は、裁判所が公表している「算定表」を基準に決めることが一般的です。
「算定表」とは、養育費の金額を表にしたものであり、家庭裁判所ではこの算定表を使って金額が決められています。
「算定表」は、権利者(養育費を請求する側)と義務者(養育費を支払う側)の年収を比較し、金額が決まります。
「算定表」は、以下の裁判所のホームページ上で公開されていますので、実物を見てみてください。
養育費算定表の見方
算定表は、子の人数、年齢(0歳~14歳か15歳以上か)によって見るべき表が異なります。
まずは、自分の状況にあった表を探しましょう。
表を見ると、縦軸が義務者、横軸が権利者の年収を示しています。
「給与」は、給与所得者(サラリーマンやパート職員など)、「自営」は自営業者(個人事業主)を意味しますので、収入の性質に当てはまる方の数字を見つけます。
縦軸と横軸が交差する部分が養育費の月額になります。
この、算定表は公立の学校へ進学することを想定しています。
私立の学校へ進学した場合の費用や大学進学の費用は考慮されていないため、すでに私立に進学していたり、大学進学を希望している場合はその費用についても話し合い、どのように負担するのか協議する必要があります。



本来、養育費の金額は、子の生活指数や双方の収入から生活費に充てられる部分を計算し、決定していくことになります。
しかし、このような計算をしなければ養育費の金額が計算できないとすると面倒であるため、このような計算をした結果を表に表したものが算定表です。
算定表は、「6万円~8万円」のように幅のある記載がされているため、この価格の幅の中で紛争になることもあります。
そのような場合は、算定表のもととなった計算をして金額を計算することもあります。
養育費の支払い期間はいつまで?


養育費は、子どもが経済的に自立できるようになるまでと考えられ、一般的には20歳になるまでとすることが一般的です。
もっとも、20歳としなければならないという法律上の決まりはありませんので、当事者が合意をすれば、「4年制大学を卒業する年の3月まで」、「高校を卒業する年の3月まで」のように決めることも可能です。
養育費の取り決め方法は?


養育費を取り決める方法ですが、「協議(話し合い)」、「養育費調停・審判」、「離婚裁判」のいずれかです。
協議(話し合い)
裁判所外で、当事者双方で話し合いをし、養育費の金額を決めることができます。
「算定表」を使えば、協議もスムーズになると思いますが、算定表に縛られず、表よりも高い金額/低い金額で合意をすることも可能です。
ここで、注意をしたいのが、「口約束だけで決めてしまわない」という点です。
養育費は、子どもが自立するまで何年も続いていくものです。
しかし、残念なことに養育費が途中から払われなくなるケースは非常に多く、また請求しても夫が支払いに応じない状態が続くと、請求することをあきらめてしまう方も多いのが現状です。
よって、養育費の支払いを約束する合意書を作成しておくことが必要です。
この合意書は、当事者で作成することも可能ですが、これを一歩進めて「公正証書」を作成することが望ましいです。
公正証書は、公証役場という役場にいる公証人が作成する書面です。
当事者が作成する合意書と公正証書の違いは、支払いが滞った場合に表れます。
当事者が作成する合意書の場合、支払いが滞ったときは、養育費請求の調停を申し立てるか、地方裁判所に合意書記載の支払いを求める裁判をする必要があります。
公正証書(執行受諾文言が入っている必要があります。)の場合、調停や裁判をすることなく、すぐに強制執行(差押え)をすることが可能です。
このように、「後々の裁判や調停を避けることができる」という大きなメリットがありますので、公正証書の作成が望ましいといえます。
養育費の増額・減額


養育費の取り決めをしてから全く事情が変わらないということは極めて稀です。
養育費の支払いが終わるまでの間に「権利者/義務者の収入が増えた(減った)」、「権利者が再婚して、子が再婚相手と養子縁組をした」、「義務者が再婚し、子が生まれた」というような事情の変更があった場合、養育費を増減額することを請求することができます。
なお、事情が変わったからといって自動的に金額が変わるわけではありません。
よって、変更してほしい側が変更の請求をする必要があります。
話合いで合意がまとまらない場合には、裁判所に養育費の増額・減額の調停を申し立てることになります。
養育費が支払われない場合
養育費は、子どもが自立するまでの間、長期間支払いが続くものです。
しかし、残念ながら途中で払われなくなってしまうことも多いのが現状です。
では、養育費を支払わなくなったとき、どのように対処したらいいでしょうか。
履行勧告・履行命令
養育費を払ってもらう手続きとして、「履行勧告・履行命令」があります。
履行勧告とは、調停や審判で決まった通りに支払いをしない人に対し、家庭裁判所に申立てをして、裁判所から支払うよう勧告してもらう方法です(人事訴訟法38条、家事事件手続法289条)。
養育費を支払わない人に対して支払いをするよう勧告する制度ですが、あくまでも勧告になりますので強制力はありません。
履行命令とは、履行勧告よりも厳しく、支払いをしない人に対し裁判所から支払うよう命じる制度です(人事訴訟法39条、家事事件手続法290条)。
命令に従わない場合は一定の過料の支払を命じられる場合があるため、履行勧告よりは強いものになりますが、こちらも強制力はありませんので、相手からの支払を待つことになります。
また、履行勧告・履行命令は、家庭裁判所による調停、審判、訴訟で決められたものに対して行う手続きです。
当事者間の話し合いで決めた公正証書では、履行勧告・履行命令の手続きは行えないため、次の強制執行を検討することになります。
強制執行(差押え)
督促しても支払いがない場合、「強制執行」が考えられます。
強制執行とは、決められたとおりに養育費の支払いをしない人に対して、相手の財産(一般的には給料または預貯金口座)を差押え、そこから養育費の支払いを受けるための手続きです(民事執行法151条の2)。
履行勧告等と違い、強制的に支払いを確保できます。
強制執行については、詳しく解説したページをご覧ください。


まとめ
養育費は、子どもが成長していくために必要な大切な費用です。
払ってもらう側にとっては子育ての大切な費用である一方、支払う側にとっては毎月支払払いを続けるのは大きな負担になります。
そのため、支払いが滞ってしまう、金額を増やしてほしい・減らしてほしいなど、後からトラブルが起きやすい事項でもあります。
一度話し合いがこじれてしまうと一人で解決するのは難しいので、ぜひ弁護士にご相談されることをお勧めします。