長年連れ添った夫婦が離婚する「熟年離婚」が増加する傾向にあります。
このページでは「熟年離婚」についてお悩みの方に向けて、基本的な考え方や方法を全て解説することを目的としています。
以下のようなお悩みをお持ちの方、または熟年離婚のお悩みを抱えている親御さんを持つお子さんは、本ページをお読みください。
- 突然、熟年離婚を妻から/夫から切り出されてしまった
- 熟年離婚をして第二の人生を踏み出したいが、夫(妻)が離婚に応じてくれない
- 熟年離婚を決意したものの、その後の生活が不安でなかなか踏み出せない
- 熟年離婚を切り出され、自分も離婚をすること自体はやむを得ないと考えているが、離婚条件を有利にしたい
- 浮気のような明確な理由はないが、離婚をしたいという希望が強い
- いざ離婚しようとした場合、持ち家や住宅ローンをどうすればいいか分からない
熟年離婚とは?
「熟年離婚」は法律的な用語ではなく、明確な定義もありません。
一般的に、定年後の夫婦が離婚をする場合を指して使われることが多いようですが、夫婦の年齢に限らず、結婚してから20年以上の長い期間連れ添った夫婦が離婚することと考えられています。
よって、年齢的には50代~60代の方が多いと思われますが、40代や70代以降の方も含まれます。
統計によると、離婚件数自体は平成14年の28万9836組をピークに減少傾向が続いています。しかし、同居期間別にみた離婚件数では、同居期間が20年以上の夫婦の離婚件数は4万組前後と高い水準で推移しています。
令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数の概況)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/dl/kekka.pdf
熟年離婚の原因、特徴
熟年離婚を考える原因は夫婦ごとに異なりますが、一般的に見られる原因は以下のとおり男性と女性で異なるようです。
女性側、男性側、それぞれから見た離婚原因の特徴を見てみましょう。
女性側から見た熟年離婚の原因
子どもが成人し独り立ちしたことをきっかけに、それまで離婚を決意するまでに至らなかった夫に対する不満を無視できなくなってしまったということが原因となることが多いと思われます。
長年にわたってモラハラ(言葉や態度で精神的に嫌な思いをさせること)があった場合でも、子どもが小さい間は離婚を思いとどまっていたものが、子どもが成人したことにより、我慢をする理由がなくなり、一気に離婚を意識するに至るということは、お話をお聞きする中でもよく耳にするものです。
また、夫が定年となり「夫婦2人の時間」が多くなることで、夫と向き合うことが増え、「夫との今後の人生」を考えることができず、離婚に踏み切る方も一定数いらっしゃいます。
このように、夫の浮気や暴力など、目立った離婚原因がないものの、離婚を希望する点が熟年離婚の特徴といえます。
もちろん、夫の不倫が熟年離婚の原因となることもあります。
熟年離婚の特徴としては、「1回の不倫が離婚まで直結する」可能性が飛躍的に上がることです。
子どもが小さい間であれば、夫の不倫が発覚したとしても、実際に離婚まで踏み切るには大きなハードルがありますが、熟年離婚の場合は「子どものために」という考えが働きません。
また、「今後の態度を見て決める」という考えも起きにくいため、離婚原因となる事情が発生した場合に離婚まで進んでしまう可能性は高いように思われます。
もっとも、長年専業主婦をされていた方のように、自らの収入がなく、自分で自由に使える金銭が少ない場合、離婚後の生活が不安であるため、離婚を思いとどまる方もいらっしゃいます。
離婚後の生活については、この後記載する婚姻費用、財産分与、年金分割に関する部分で詳しく解説していきます。
男性側から見た熟年離婚の原因
熟年離婚というと以前は妻が夫に切り出すというイメージがありました。
しかし、近年は夫が妻に離婚を切り出すことも増えています。
女性が考える離婚原因と同様、妻の浮気など目立った離婚原因があるわけではなく、妻に対する些細な不満が長年積もり、離婚を切り出すというケースが多いように思われます。
また、定年退職を機に、「趣味に没頭したい」、「海外に移住したい」等、第二の人生の過ごし方に関する夫婦間の考え方の違いが離婚原因となったケースもあります。
第二の人生を別な女性と歩みたいと考えて離婚を希望する方もいらっしゃいます。
熟年離婚の特徴
熟年離婚を考える原因はケースバイケースですが、男女ともに、大きな出来事があって離婚に至るというよりは、長年積もり積もった不満が限界を超えてしまったということが多いように思われます。
このように、長年にわたる夫婦間の関係が離婚原因となるため、一度離婚を決意すると、その決意は非常に堅いものとなる傾向があるように思います。
逆に、離婚を決意するまでには様々な葛藤が生じますし、女性側には離婚後の生活が不安という理由から離婚をすることに迷いが出てしまうこともあります。
離婚をすべきかどうかのチェックポイント
「離婚をすべきかどうか」の決断は非常に難しいものです。
1人で考えていても、色々な考えが頭の中に浮かんでしまい、考えがまとまらず、悩みが深まってしまうという状態の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで、「離婚をすべきかどうか」を考えるに当たって、いくつかのチェックポイントを記載してみました
フォレスト法律事務所では「離婚をすべきですか?」というご質問を頂いた際、様々な観点からお話を聞き、アドバイスをしていますが、過去のご相談から共通すると思われるチェックポイントを抜き出したものです。
実際のご相談では、具体的なご事情を基に、より掘り下げたお話をしていくため、より詳細なご相談を希望される方はお気軽にお問い合わせください。
また、既に離婚の意思を固められている方にとっても、ご自身の意思を再度確認する意味でチェックをしてみることは有用だと思います。
① 「離婚したい」と思ってからの期間
「離婚したい」と思ってから現在までの間でどの程度の期間が経過しているか、は離婚意思の堅さを判断する際の重要な要素となります。
数年間にわたって離婚したいと思っている方の場合、今後も離婚したいという気持ちになる可能性は非常に高いといえるでしょう。
離婚したいという気持ちとなってからの期間が短い場合、離婚原因がどれだけ強く大きいものかにより、判断は異なります。
例えば、夫・妻が不倫をしたことが発覚し、今後どれだけ時間が経っても許すことはできないと確信しているような場合は、期間をあまり重視すべきではないでしょう。
逆に、そこまで確信できないということであれば、少し時間を置いて見ることも一案ではないでしょうか?
② 相手の態度が変わったらどうするか?
離婚を望む原因が、妻/夫の態度や物言いのように、相手の日常的な言動に対する不満であったとします。
このような問題は、本人にとっては重要なものですが、相手からすると自覚がないということも少なくありません。
あなたが離婚を切り出したとして、相手が自分の態度を反省し、改善することを誓ったとした場合、あなたはどのように思うでしょうか?
離婚を切り出されたことをきっかけに自らの行動のまずかった点を自覚し、謝罪や改善を誓うケースが見られます。
謝罪し、改善を誓った相手を見て「もう少し様子を見よう」と思われるのであれば、思い切って自分が抱えている不満を相手に打ち明けてみるのもいいでしょう。
しかし、「改善すると言われても信用できない」、「相手の行動が改まることはない」と思うのであれば、関係の修復は非常に難しいと思われますので、離婚の準備を進めることをお勧めします。
③ 冷静に話し合いをすることは可能か
あなたが離婚を考えるほど悩みを抱えている以上、離婚を回避するためには夫婦間の話合いが不可欠です。
夫婦間の問題を話合う場合、冷静に話をすることは難しく、感情的になってしまいがちです。
「相手の弁が立つから言いくるめられてしまう」、「相手が感情的に怒鳴り散らすため、話合いにならない」ような状況であれば、改善は極めて困難ですので、離婚の準備を進めるべきでしょう。
④ 妻/夫のいない人生を想像できるか
これまで長年夫婦生活を送ってきたことから、相手にも良い部分はあったはずです。
いざ離婚となれば、復縁することは前提とされていないでしょうから、今後の人生には妻/夫はいないことになります。
離婚後の第二の人生を想像したとき、妻/夫のいない人生を具体的に想像できる状態であれば、その状態に向け準備を進めるべきであるといえます。
逆に、妻/夫のいない人生が想像できないという状況であれば、もう少し離婚後の人生設計を考えられてみてもいいかもしれません。
まとめ
以上、チェックポイントをみてきました。
それぞれのご事情により具体的に考えるべき点は異なりますので、①~④を全て検討しなければならないというものではありません。
離婚に至るまでの道筋
離婚を決意した後、離婚に至るまでの道筋について解説します。
「離婚」という結論について、夫婦間で異論がなく、離婚条件についても争いがないということであれば道筋を把握しておく必要性は小さいです。
これに対し、「離婚をすること」や「離婚条件」について意見が食い違う場合、話合いを続けても意見がまとまらない可能性があります。
そのような場合、「この後どのような道筋をたどることになるのか」を知っておくことで、将来の漠然とした不安をなくすことができます。
① 離婚協議
まず、離婚の意思があることを相手に伝え、離婚条件について話合いを行います。
話合いをしても進展が見込めないことが明らかな場合は、協議を早期に打ち切り、調停を早々に申し立てることもあり得ます。
話合いを行う期限(タイムリミット)はありませんので、双方が納得のいくまで話合いを行うことは可能です。
もっとも、話合いが膠着状態となってしまったまま時間が経過してしまうと、いつまでも問題が解決しないため、協議の進展が見込めないと判断した段階で離婚調停の申立てを検討しましょう。
② 離婚調停
家庭裁判所内で、調停委員を介し、話合いを行います。
調停は、1か月~1か月半に1度のペースで期日が開かれますので、決まったペースで話合いを行うことができます。
調停には、何回までという決まった回数はありませんが、これ以上話合いをしても進展が見込めないと判断された場合には、合意が成立せず、終了します。
調停を経た場合、離婚成立までにかかる期間ですが、ケースバイケースではあるものの、半年~1年程度が目安となります。
③離婚裁判
これまで見た協議・調停が話合いを行う手続きであったのに対し、裁判は法律に基づき裁判官が離婚すべきかどうかを判断します。
双方が法律に従った主張を行い、これを裏付ける証拠を提出する手続であるため、協議や調停よりも厳格な手続となります。
解決までの期間ですが、こちらもケースバイケースですが、1年程度が目安となります。
どの手続が最適かは、具体的な状況によって異なります。
この判断は非常に難しいため、弁護士に相談されて決めることをお勧めします。
また、協議、調停、裁判手続の比較は以下のページを参照ください。
離婚に向けた準備
いざ離婚をしようと決めたとしても、離婚に向けた準備を事前に行っておく必要があります。
準備すべき事項は挙げれば切りがありませんが、最低限以下に記載することは行っておくことをお勧めします。
① 財産を整理しておく
婚姻生活が長期となると、夫婦で築いた財産も複数となっているでしょう。
不動産、預貯金、自動車のような目に見える財産のほか、株式、投資信託、個人年金、各種保険、退職金のように、見逃してしまう財産も存在します。
また、「不動産を購入するときに、婚姻前の貯金から頭金を支払った」という場合、財産分与では自己の権利を主張できることがありますが(特有財産といいます)、頭金を支払ってから数十年が経過してしまうと、つい支払ったことを忘れてしまうこともあるでしょう。
離婚時の財産分与では、双方の財産を整理し、これを分け合うことになるため、もれなく財産を整理しておくことが重要です。
離婚前に別居をする場合、別居をしてからでは相手の財産に関する資料を確保する手段はなくなってしまいますので、あらかじめ、どの銀行のどの支店に口座があるかなどは確認しておいた方がよいでしょう。
② 希望する離婚条件を明確にする
離婚協議を始める前の段階で、目指すべきゴールとなる離婚条件を決めておくと、その後の判断の指針ができ、的確に手続を進めることができます。
「いつまでに離婚を成立させたい」、「慰謝料としていくら支払ったほしい」、「財産分与として、この財産は絶対に確保したい」など、自分の中で絶対に譲れない条件を確認しておきましょう。
③ 別居する場合は、別居先を決める
同居をしたままでは、冷静に離婚の協議をすることができない場合には、別居をすることも検討しなければなりません。
いざ別居をしようとしても、物件を探し、契約をし、転居をするという作業は思いのほか重労働ですので、離婚協議が始まってしまってから転居先を探すことは精神的にも厳しいと思います。
離婚協議が始まる前の段階で、大まかにでも転居先の目安は立てておくことが望ましいです。
【まとめ】 熟年離婚は弁護士の助力が必要
ここまで、熟年離婚について解説してきました。
熟年離婚の問題は、検討すべき事情が多く、複雑化しがちです。
また、財産分与の結果は、今後の人生を大きく左右するものですので、的確な処理が必要となりますので、お悩みの方は、専門家である弁護士にご相談することを強くお勧めします。
フォレスト法律事務所では、離婚までのスケジュール設定、条件の検討など、初期の段階から熟年離婚をサポートします。まずはお気軽にご相談ください。