面会交流の条件を設定する際、「頻度・回数」は当事者間で激しく紛争となる項目の一つです。
最適な「頻度・回数」は、具体的な状況によって異なるため、個別の事情を見て決定するしかありません。
しかし、調停手続などでは「面会の回数の相場は月に1回」と当然のように言われる場面に遭遇します。
インターネット上でも、明確な理由なく「月1回」をベースにして説明をしているサイトは多いです。
しかし、具体的な事情を離れて「月1回の相場」を基準とすることは、子どもにとっても当事者である父母にとっても好ましくありません。
そこで、このページでは具体的に面会交流の回数を決めるにあたって考えるべきポイント、相手への伝え方について解説します。
ご自身の状況に当てはめながら読み進めてください。
なお、面会交流の回数、取り決めの有無、面会交流を実施しない理由等について、統計データを知りたい方は以下のページで詳しく分析していますので参照ください。
面会交流の相場を重視する必要はない
「面会交流の回数の相場は?」という質問をされることは多いですが、ご家庭によって事情が異なる以上、「相場の回数=妥当な回数」となるケースはごくごく僅かだと思われます。
例えば、中学受験を控える小学六年生の子が直前期の冬に、月に1回面会交流を実施することは難しいかもしれません。
他方、別居直前まで父子の関係が円満で、二人で過ごす時間も多く、別居後も子が面会を望んでいるような場合、月1回で充分かと言えば大いに疑問です。
このように、子の出生から現在に至るまで、全ての事情を考えなければ面会交流の回数を決めることはできないであり、具体的な事情を離れて相場や回数の上限/下限を決めることはできません。
インターネット上のある方の体験談によると、名古屋家庭裁判所に所属していたある裁判官が「面会交流の上限は月1回7時間まで」と言ったとのことですが、この話が本当であれば、この裁判官の言動は的外れであって、断じて許されるものではありません。
なぜ「月1回」が相場とされるようになったのか
なぜ面会交流の実施頻度・回数の相場が「月1回」となったのかですが、法律に回数に関する規定はありませんし、「月1回が相場」と認定した裁判例も見当たりません。
上でご紹介しましたが、統計データによると、面会交流の実施回数(頻度)で最も多い割合が「月1回以上2回未満」です(母子家庭の24.2%、父子家庭の27.7%)。しかし、「相場」といえる程のシェアかと言えば、微妙なところです。
回数の相場が月1回とされている理由ですが、婚姻費用や養育費の算定表と同じく、目安となる回数がないと協議が進めにくいので、「相場」という目安が必要となることは確かです。
そして、具体的な事情を離れて、「多過ぎず少な過ぎず」という頻度が「月1回」程度とされ、「相場=月1回」となったのではないかと考えます(あくまで私独自の見解ですが)。
このように、相場というのは明確な根拠はなく「ほどほどに」という程度の意味しかないのです。
相場が自分の状況に合うかを冷静に考えてみる
「相場」というと「大半の人が従う基準」のように見えてしまいますが、上で見たように実際は大した意味を持っていません。
分かりやすい例を挙げれば、子どもが北海道の根室に住んでいて、別居する親が名古屋市に住んでいる場合、相場にしたがって月1回と決めれば、莫大な交通費がかかってしまいますし、体力的な負担も大きいでしょう。
ここまで分かりやすい事例は少なく、実際は回数を増やすべき事情、減らさざるを得ない事情が絡み合うもので、相場による解決で両当事者が納得するケースは非常に限られます。
ご自分の状況が相場で解決すべき事案かどうかについては冷静に考えてみましょう。
面会交流の回数を決める際に考えるべきポイント
面会交流の回数は相場ではなく具体的な事情を踏まえて決めるべきであることを書いてきました。
ここからは、面会交流の回数で折り合いがつかなかった場合に、考慮すべき事情について説明していきます。
子どもの考え
当然ですが「子どもの考え」、「子どもの気持ち」が考慮要素となります。
子どもが別居親と会うことを心から楽しみにしているのであれば、これを尊重すべきでしょう。
逆に、子どもが野球のクラブチームに入ったり、受験のために懸命に勉強しているため、面会より自分のための時間を大事にしたいということであれば、これも尊重すべきです。
但し、子どものの考えを把握する際、「一方の意思が子に不当な影響を与えていないかどうか」には注意すべきです。
「別居親が子供にプレゼントを買ってあげる場合は1万円以内で」のような取り決めがされる場合がありますが、これは別居親が高価なプレゼントを買ってあげることで、子が別居親に対して、過度にに有利な印象を与えることがないように制限することを目的とした決まりです。
また実務上、頻繁に問題となるのが、同居親が子どもに別居親の悪口を吹き込んだことで、子どもが別居親を拒絶するようになってしまうケースです。
同居親が明確に悪口を言わずとも、子どもが空気を読んで別居親を拒絶してしまうこともあります(片親疎外と言われます)。
子どもの真意は、家裁調査官の調査によって明らかとなることが多いですが、子の年齢や置かれている環境によっては、言葉が真意を表していない可能性があることを十分に注意する必要があります。
子どもの年齢
子どもの年齢も重要な要素です。
乳幼児の場合、子どもだけで面会場所に行くことはできませんし、急病や突発的なアクシデントに対応する技量が必要となります。どうしても、同居親側の関与が必要となってしまうため、同居親の事情に配慮する必要があります。
他方、子が中学生以上となって、ある程度行動や意思決定の範囲が広がっているのであれば、子の自由な判断に任せるべきといえるでしょう。
当事者の関係
両親の関係が良好とは言わないまでも、そこまでこじれていない場合、互いの都合や子どもの体調、感情を踏まえて面会交流を実施することが可能です。
他方、両親が顔を合わせるたびに口論となり、子の面前でも喧嘩が止まらないというような場合、面会交流の実施は困難でしょう。
このように夫婦関係が悪化し、険悪な状態を高葛藤と表現します。
この「高葛藤」は、面会交流ができない事由として主張されることがあり、裁判所も「高葛藤だから」として面会交流を認めない判断をすることがあります。
しかし、面会交流を実施できない理由が「高葛藤だから」だけである場合、面会交流を拒否された側は「高葛藤だから仕方ない」と納得するでしょうか?そこまで簡単に感情が収まるのであれば調停や審判までもつれることはないでしょう。
あくまで、「高葛藤」が面会交流の障害事由となるのは、父母間の高葛藤が面会交流に悪影響を及ぼすからであって、「高葛藤=面会できない」と単純視することはできません。
よって、「高葛藤だから」という理由だけで面会交流の実施が拒否された場合、面会交流にどのような悪影響があるのかが具体的に説明されていないため、監護親のわがままで面会が邪魔されたとの印象を持たれてしまうでしょう。
高葛藤を理由に面会交流を制限するのであれば、この後解説するような工夫が必要です。
当事者の意向、環境、経緯
当事者、特に非監護親が面会交流に前向きでない場合、頻回に面会交流を実施することは難しいです。
他方、監護親が面会交流に前向きでない場合、直ちに面会交流を拒絶したり回数を減らすことにはつながりません。
次に、別居親と子の居住場所などの環境も重要な要素です。上で見たように、北海道と名古屋に住む親子が頻回に面会交流を実施するのは、時間的にも経済的にも負担が大きいです。
上記の他、親子が別居をして顔を合わせなくなってから相当の期間が経過している場合は急に面会交流の回数を増やすのではなく、徐々に回数を増やしていくことが考えられます。また、父母の一方又は双方に新たな交際相手ができたり、再婚をした場合、面会交流の実施回数についても調整が必要となることもあるでしょう。
面会交流の回数を提案する際の伝え方
面会交流の回数を決める際に考慮する要素を見てきましたが、いくら個別事情を考慮したとしても、相手に伝われなければ意味がありません。
そこで、ここからは「相手にどのように伝えるか」について見ていきます(審判手続の場合は、この相手が「裁判官」となります)。
どの立場であっても、「子どもの利益」にとってどうすべきかという観点が重要
回数を増やしたい立場でも減らしたい立場でも、「子どもの利益にとって回数をどうすべきか」という観点が重要です。
難しいのは、「子どもの利益が何であるか」が、同居親・別居親の立場によって変わるため、子どもの利益を考えれば即問題が解決することにはならないということです。
定量的な基準とはならないため、かえって「子どもの利益が何か」をめぐって紛争化してしまうこともありますが、面会交流が子どものために実施するものである以上、「子どもの利益」の観点からまず考える必要があることは確かです。
よって、回数を増やしたい場合でも減らしたい場合でも、「〇×の理由で、回数を増やすこと(減らすこと)が子どもにとって、△◆の点で利益となる」のように、具体的に説明することが必要となります。
回数を増やしたい側→減らしたい側への提案方法
具体的に回数を増やしたい側から減らしたいと考えている側への提案方法を見ていきましょう。
提案の前段階で試行的に面会交流を行っているのであれば、面会交流を行った際の子どもの状況を伝えた上で、「現状の回数では子どもが満足できず、より時間を増やすべき」というようなアプローチが考えられます。
また、回数を減らしたい理由が明らかとなっており、これが自身の工夫や努力で改善できる可能性がある場合、具体的な対応策を提案することも有用でしょう。
回数を減らしたい→増やしたい側への提案方法
現在面会交流を実施している場合、現状のペースを維持して交流を実施した場合に、どのようなデメリットが生じるのかを具体的に説明することが重要です。
例えば、
- 子どもが土日曜日にサッカーのクラブチームに入った。土日曜日も練習があり、面会交流のために練習を休むとレギュラーになれない
- 行きたい中学が見つかったので、中学受験を目標に塾に通うようになった。土日曜日は模試があり、模試の成績で塾のクラス分けがされるので、しばらく面会交流は見送ってほしい
などです。
このように、面会交流を実施することで明確なデメリットが出るケースばかりではありませんが、極力具体的に事情を説明することが重要です。
また、回数を減らす提案をするだけでなく、代替案を提示するとより好ましいといえます。
例えば、月2回を1回に減らす分をテレビ電話の交流にする、回数を減らす分を長期休みに実施するなどが考えられます。
ご自身の状況にあった最適な回数を見つけてください
以上、面会交流の回数・頻度を決める際に考えるべきポイント、伝え方を解説してきました。
面会交流の回数を決める際は、双方の感情がぶつかってしまい、適切な回数を見つけて折り合うということができず、どうしても「相場」の回数に頼りたくなってしまいます。
しかし、親子の関係はそれぞれのケースで状況が異なり、本来「相場」というもので解決できるものではありません。
是非、本ページを参考に最適な回数を見つけてください。
そして、面会交流の回数・頻度でお悩みの方はすぐにフォレスト法律事務所にご相談ください。