
「年金分割ってなに?」
「もらえる年金が増えるものなの?」
「手続きが面倒そう」
離婚を考える際、意外と見落としてしまうのが年金分割の制度です。
年金分割という制度は広く知られるようになってきましたが、その中身や具体的な手続は分かりにくいです。
専業主婦の期間が長い方であれば、年金分割を利用しないまま離婚をしてしまうと、将来もらえる年金が少なくなってしまう可能性があります。
また、共働きであっても、制度の仕組みを知らないと思わぬ損をしてしまうかもしれません。
年金分割や年金の制度について、詳しくご説明します。
年金のしくみ
まず、年金制度の仕組みについて、見ていきましょう。
年金制度は、3階建ての構造になっています。
- 1階:国民年金
- 2階:厚生年金(共済年金)
- 3階:企業年金、確定拠出年金等
このあと、ご説明しますが、年金分割の対象となるのは、2階の厚生年金部分のみとなります。
1階と3階部分は分割の対象とはなりません。
国民年金
1階の国民年金には、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入します。
国民年金の加入者は、次の3種類に分かれます。
- 第1号被保険者:自営業、フリーランス、学生、農業従事者
- 第2号被保険者:会社員、公務員等
- 第3号被保険者:第2号被保険者の配偶者である専業主婦等(主夫、健康保険の扶養範囲内で働くパートタイムを含む)
1号被保険者は、国民年金保険料を自分で納めます。
2号被保険者は、厚生年金に加入し、収入に応じた保険料を支払います。
3号被保険者の保険料は、配偶者が加入する厚生年金制度から払われます。
第3号被保険者は、保険料を納めなくても、国民年金には加入しているため、将来、国民年金部分(基礎年金)については年金が受け取ることができます。
厚生年金
一般的に会社員や公務員、私立学校教員の方が加入する年金です。
2階部分の厚生年金に加入すると、1階部分の国民年金にも自動的に加入したことになるので、将来は国民年金部分(基礎年金)と厚生年金・部分を合わせた年金が受け取れることになります。
年金分割の対象になるのは、この厚生年金の部分です。
そのため、夫が国民年金保険のみに加入し、厚生年金に加入していない自営業の方は、そもそも分割すべき年金記録がないため、制度が利用できないことになります。
企業年金、確定拠出年金等
企業年金や確定拠出年金、厚生年金基金や国民年金基金は、1階、2階部分よりさらに上乗せの年金になります。
年金分割の対象は、厚生年金部分のみが対象です。
3階の上乗せ給付部分は分割の対象にならないので注意しましょう。
年金分割とは

ここまで年金制度について見てきました。
そして、「年金分割」とは、「結婚している期間中に納めた年金保険料の記録を2人で分割する」という制度です。
結婚している間に納めた保険料は夫婦が協力して支払ったものである、という考え方から、厚生年金の記録を多い方から少ない方へ分割します。
注意していただきたいのが「夫が受給する予定の年金の半分がもらえるわけではない」「対象になる年金は、婚姻期間中の厚生年金部分のみ」という点です。
まず、年金分割の対象となるのは、厚生年金部分のみです。
基礎年金である国民年金や、企業年金・確定拠出年金等の上乗せ部分は対象になりません。
厚生年金は、納めた保険料と期間によって受け取る年金の金額が決まります。
年金額を計算する際の基礎になるのが「標準報酬」というもので、保険料を納める人の収入に応じて変わります。
年金分割は、この標準報酬の記録を分割する(多くは2分の1ずつになるようにする)ことで、婚姻期間中の厚生年金の記録を夫婦公平にし、将来受け取れる年金に反映させようという仕組みです。
よく、年金分割というと、「将来もらえる年金を半分に分けるもの」とイメージされますが、そうではありません。
年金額を計算するための基礎になる記録(標準報酬)を分割するのが年金分割です。
また、分割の対象となる期間は、「結婚している期間のみ」ですので、婚姻前の記録は対象となりません。
さらに、夫が厚生年金に加入していない自営業者の方は、分割すべき年金がないため、そもそも年金分割制度の対象にはなりませんので、注意が必要です。
もし妻が厚生年金等に加入していた場合、妻から夫へ年金分割をすることになります。
年金分割制度が利用できる人、できない人

年金分割は、厚生年金のみを対象にするため、加入している保険制度によって年金分割ができるかどうかが変わってきます。
職業ごとのパターンに分けてご説明したいと思います。
専業主婦(主夫、扶養の範囲内で働くパートタイム等も含む)の場合
- 会社員・公務員と専業主婦(夫)
会社員の夫は厚生年金に加入していますから、専業主婦の妻へ分割されます。
夫が専業主夫である場合は、妻から夫へ年金が分割されます。
- 自営業者と専業主婦(夫)
自営業者である夫(妻)は、国民年金のみに加入し厚生年金には加入していませんから、分割すべき年金がなく、年金分割制度は利用できません。
共働きの場合
- 共働き(どちらも会社員・公務員)
どちらも厚生年金に加入しているため、多い方から少ない方に分割します。
- 共働き(一方が会社員・公務員、一方が自営業)
会社員・公務員の方は厚生年金に加入しているため、会社員等の方から自営業の方へ分割します。
夫が自営業、妻が会社員の場合で、夫の方が収入が多かったとしても、分割できる年金制度に加入しているのは妻のみになりますので、妻から夫へ分割することになります。
- 共働き(どちらも自営業)
両方とも厚生年金に加入していないため、分割すべき年金がなく年金分割の対象にはなりません。
3号分割と合意分割の違い

年金分割の制度には「3号分割」と「合意分割」の2種類があります。
それぞれ要件や利用できる人が違うため、一つずつ内容を見ていきましょう。
3号分割とは?
国民年金の受給者のうち、第3号被保険者(第2号被保険者の配偶者である専業主婦等)のみが利用できる制度です。
相手の合意がなくても、離婚後に手続きをすれば年金の分割を受けることができます。
のちほど出てくる合意分割は、相手の合意がなければ分割できません。
しかし、3号分割制度は次の要件を満たせば、同意を得ることなく、一人で手続きをするだけで分割ができます。
・平成20年5月1日以降に離婚している
・平成20年4月1日以後の婚姻期間のうち、第3号被保険者であった期間がある
・離婚した日の翌日から2年を経過していない
注意する点としては、3号被保険者であった方から請求の手続きをしないと分割されません。
離婚したからといって自動的に分割されるものではありませんので、請求期限内に手続きが必要です。
また、この制度は平成20年4月1日以降の婚姻期間が対象になりますので、それ以前に婚姻している期間については、次に出てくる合意分割の手続きを合わせてする必要があります。
合意分割とは?
合意分割制度とは、夫婦間で合意ができた割合に応じて最大2分の1まで分割ができる制度です。
話し合いで合意ができればそのまま手続きに移行しますが、合意ができなければ調停・審判・裁判によって決定します。
離婚調停を申し立てているケースでは離婚調停に付随して決め、訴訟であれば附帯処分といって離婚訴訟と併せて決定するよう請求する方法が考えられます。
合意分割をする場合、厚生年金の記録を正確に知るために「年金分割のための情報通知書」を取得する必要があります。
情報通知書には、分割の対象期間や標準報酬総額が記載されており、これをもとに協議をすすめることになります。
合意分割の要件は、次のようになります
- 平成19年4月1日以後に離婚している
- 夫婦間で按分割合に合意している、または裁判手続きで割合を決定している
- 離婚した日の翌日から2年を経過していない
3号分割の場合は、その名前のとおり3号被保険者(専業主婦等)のみが請求できる制度ですが、合意分割は1号、2号被保険者の方も請求できます。
つまり、
夫も妻も会社員として働いているものの、妻の方が収入が少なく夫からの分割をしたいケース
妻が自営業で国民年金にしか加入していないため、会社員の夫から分割を受けたいケース
などで合意分割の制度が利用されます。
年金分割の手続きは?
3号分割の場合
3号分割の場合、相手の合意は必要ありませんから、離婚した後に年金事務所に行って一人で手続きをすることができます。
手続きの際は、「標準報酬改定請求書」(日本年金機構のサイトからダウンロードできます)を記入し、次の書類を添えて提出します。
- 請求書にマイナンバーを記入したときは、マイナンバーカード等
- 請求書に年金番号を記入したときは、年金手帳または基礎年金番号通知書
- 婚姻期間等を明らかにできる書類(戸籍謄本または全部事項証明書、それぞれの戸籍抄本または個人事項証明書のいずれか。住民票は不可)
- 請求日一ヶ月以内に作成された相手方の生存を証明できる書類(戸籍抄本または個人事項証明書、住民票のいずれか。請求書にマイナンバーを記入することで省略可能)
合意分割の場合
- 話し合いで合意
離婚した後、当事者2人または双方の代理人が一緒に年金事務所に行って手続きをします。
どのような組み合わせでもよいですが、必ず2人いなければいけません。
その際、合意した内容を明らかにするため、次のいずれかの提出が必要になります。
- 按分割合について合意した旨を記載し、ご本人が署名した書面(様式は日本年金機構のサイトにもありますが、ご本人が自分で署名し、合意分割の請求時に当事者双方またはそれぞれの代理人が直接持参する必要があります)
- 合意内容を明らかにした公正証書謄本または抄録謄本
- 公証人の認証を受けた私署証書
- 裁判手続きで合意
合意分割であっても、調停・審判・裁判など裁判手続きで分割割合が決まった場合は、どちらか一人で手続きができます。
裁判手続き上で決まったことがわかるよう、次のいずれかの提出が必要です。
- 調停または和解の場合 調停調書または和解調書の謄本もしくは抄本
- 審判または判決の場合 審判書または判決の謄本もしくは抄本、確定証明書
上記のほか、「標準報酬改定請求書」を記入し、次の書類を合わせて提出します。
- 請求書にマイナンバーを記入したときは、マイナンバーカード等
- 請求書に年金番号を記入したときは、年金手帳または基礎年金番号通知書
- 婚姻期間等を明らかにできる書類 (戸籍謄本または全部事項証明書、それぞれの戸籍抄本または個人事項証明書のいずれか。住民票は不可)
- 請求日一ヶ月以内に作成された、相手方の生存を証明できる書類 (戸籍抄本または個人事項証明書、住民票のいずれか。請求書にマイナンバーを記入することで省略可能)
- 年金分割の請求をする人の本人確認書類(運転免許証等。代理人であっても必要)
- 代理人の場合は、委任状(年金分割請求用)と、委任状にご本人が押印した印鑑の印鑑証明書
なお、事実婚であった場合などは、別途証明が必要になります。
また、提出する年金事務所によって求められる書類が異なることもありますので、手続きに行く前に年金事務所に確認されることをお勧めします。
手続き後、按分割合に基づいて標準報酬が改定されると、改定後の標準報酬が2人それぞれに通知されます。
まとめ

ここまで、年金分割の制度を細かく見てきました。
年金制度は複雑なため、一読しただけでは、よく分からない部分もあると思います。
年金分割の請求は期限が決まっており、離婚した翌日から2年以内にしなければなりません。
期限が過ぎてしまうと請求自体ができなくなってしまいますので、離婚をお考えの場合は早めに対応されることをおすすめします。
年金分割は、手続きをしなければ将来の年金へは反映されません。
一人で離婚について進めていると、請求を忘れていた、相手への伝え方がわからないなど、手続きをしないまま期限が来てしまうことも考えられます。
離婚をお考えの場合は、年金分割もきちんと請求できるよう、ぜひ弁護士に相談ください。