【分野別】財産分与で最低限押さえておくべき知識 「預貯金」、「生命保険」、「退職金」

財産分与の処理方法について、財産の種類別に解説していきます。

株式については、こちらのページで詳しく解説しているため参照ください。

このページで解説したことは、頻繁に問題として出てくるものですので、預貯金、生命保険、退職金の財産分与でお困りの方はぜひ一読ください。

目次

預貯金

まず預貯金について見ていきます。 実務上、預貯金が対象財産に含まれないことはなく、財産分与の問題で避けて通れない財産とえるでしょう。

いつの時点の残高?

預貯金は、原則として別居時における預金口座の残高を合算します。

別居日時点の預貯金通帳で残高を確認することが通常ですが、通帳がない場合は銀行が発行する残高証明書を用いることも可能です。

別居後の残高の増減は原則として考慮しません

ただし、別居直前に多額の預貯金が引き出されていて、その使い道や行方が明らかにされない場合、相当額がいまだ残っていると推認されることはあり得ます。

逆に、別居日時点の残高自体には争いがないものの、一方の浪費が原因で財産が流出してしまい、貯蓄があるべき状況よりも少なくなってしまっているということがあります。

このような場合に、「浪費された財産」や「本来あるべきだった財産」の分与を求めることはできません。

婚姻前から持っていた預貯金について

夫婦の一方が婚姻前から保有する預貯金が特有財産に当たり、婚姻時の残高を別居日の残高から控除すべきかどうかということが問題となることがあります。 以下の事例をもとに考えてみましょう。

事例

婚姻時点において普通預金の残高が100万円。この普通預金口座には毎月の給与が入金され、水道光熱費や家賃が引き落とされていた。

①別居日時点の残高が120万円

②別居日時点の残高が80万円

仮に、婚姻前から持っていた預貯金が特有財産に当たるとすれば、婚姻後に増額した分だけが財産分与の対象となります。この考え方によると、①では差額の20万円のみが財産分与の対象となり、②では財産分与の対象となる部分はありません。

これに対し、婚姻時の残高が特有財産とならないという考えもあります。

夫婦がそれぞれの名義の預貯金を持っているとしても、実際はこれらの預貯金が全体として一つの家計を構成し、入出金を繰り返しながら残高が日々変動していきます。このような動きを経て長期間が経過すると、婚姻後の収入部分と婚姻前の預金が一体となると考えることができます。 また、別な言い方をすれば、婚姻時の残高が、夫婦の共有財産を形成する原資として使われたと考えることもできます。

このように考えると、婚姻時の残高は特有財産となりません。 例外的に婚姻期間が短期間である場合、婚姻前の預金が定期預金のように金銭の移動がないような場合は、特有財産に該当することとなります。 よって、上記事例では、①②とも別居日時点の実残高(100万円)が財産分与の対象となります。

婚姻時の預金が問題となった場合にどちらの考え方を取るのかは事案によって異なるため、具体的な事情を離れて「特有財産である・ない」と主張することは無意味です。
婚姻時の預金残高が高額である場合、特有財産となるかどうかで結論が大きく変わってしまうため、具体的な主張をする前によくよく検討する必要があるでしょう。

生命保険

終身保険、養老保険、学資保険医療保険、個人年金保険など、一定期間保険料を払い込んだ後に解約をした場合、いくらかの金銭’が戻ってくることがあります(解約返戻金)。この解約返戻金の金額が、その保険の財産的な価値と考えられます

具体的な解約返戻金の金額は、保険会社に問い合わせることで分かります。

例えば、別居日時点の解約返戻金が100万円の保険があった場合、その契約者は実際に解約をした上で金銭を分配するか、保険を解約せずに手持ちの金銭を分配するかのいずれかを選択することが可能です。

逆に、解約しても金銭が返ってこない保険(掛け捨ての保険)については、財産的な価値はないものとして処理します。

なお、夫婦の一方が婚姻前に保険料全額を払い込んでいた場合、夫婦の他方が保険に一切関与していないのですから、この保険は財産分与の対象とはなりません。

退職金

退職金は、一般的に賃金の後払い的な性格を持つため、夫婦の一方が取得する退職金の形成には他方の配偶者も貢献しているということができることから、財産分与の対象となるものと考えられています。

退職金は既に支払われたものであるのか、将来支払われるものであるのかによって処理する方法が変わってきます。

既に退職金が支払われている場合

離婚をするまでに既に退職しており、退職金を受け取っている場合、その受け取った退職金が財産分与の対象として扱われます。

受け取った退職金で不動産などの財産を購入した場合、退職金が形を変えて残っているといえますので、これが財産分与の対象となります。

退職金の一部又は全部を一時金ではなく年金の形式で支払われることがありますが、これも退職金である以上財産分与の対象となります。

退職前の場合(将来の退職金)

退職前であっても、別居時点で既に一定の勤続年数を満たしている場合、将来支払われる退職金の一部分については財産的な価値を有していると考えられるため、財産分与の対象となり得ます。

ただし、定年までの期間が長期間である場合には、現時点で自己都合退職した場合に支給される退職金の金額をベースとしたり、実際に定年退職した場合に支給される金額を基に現在の金額に引き直す方法など、工夫して金額を算定する必要があります。

他方、退職する時期が間近に迫っているような場合は、実際に支給される金額に近しい金額を分与の対象としてよいでしょう。

退職金の計算方法

退職金の額は、勤続年数や給与額、退職理由などによって決まります。

具体的な退職金の金額については、会社が作成した支給予定額の計算書、証明書によったり、退職金規程などによって金額を概算することで明らかにします。

婚姻前に勤務を開始している場合(勤続期間>婚姻期間)

退職金が財産分与の対象となるのは、他方の配偶者が婚姻生活を通じて貢献したことによります。

よって、婚姻期間が勤続期間より短い場合(婚姻前から勤務を開始している場合)、退職金全額を分与の対象としてしまえば、貢献していない部分の分与も認めてしまうことになってしまいます。

そこで、このような場合は以下のような計算式で財産分与の対象額を算定します。

計算式

「退職金額」×「婚姻期間」÷「勤続年数」÷2

まとめ

財産分与で頻出の「預貯金」、「生命保険」、「退職金」について解説をしてきました。

このページで解説したことは問題を解決する際に必要となる知識ばかりです。

もちろん、この記載だけで全ての問題に対応できるわけではありませんが、そのような問題については弁護士に直接相談されることを強くお勧めします。

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