夫婦の財産に不動産が含まれる場合、離婚をする際にこの不動産を的確に処理することは難しいです。
的確に処理することが難しい原因は
- 購入時に離婚をすることは想定していないので、どう処理するかも検討していない
- 大半の方にとって不動産売買は人生で一度きりのことであり、慣れない不動産売買を行う必要がある
- 売却価格、ローン額が大きな金額となるので決断にも大きな勇気がいる
といったことが挙げられます。
離婚時の不動産にまつわる問題は多岐に渡るだけでなく、個々の問題もそれぞれ考えるべき事柄が多いです。
よって、何も分からない状況で処理方法を調べ始めても、膨大な情報だけが入ってきてしまい、結果的に「調べてみたけれどよく分からない」という状況に陥ってしまいます。
そこで、本ページでは、不動産を巡る離婚問題について、「典型的に問題となること、その解決策」について解説し、問題の全体像を理解できることを目的としています。
本ページで問題の全体像を理解し、ご自身の状況に合った解決策を細かく見ていくことが効率的だと思います。
どのような問題が出てくるかを把握しましょう
まず、不動産が共有財産に含まれる場合に、どのような問題が起きるかを大まかに見ていきましょう。
既に具体的なお悩みをお持ちの方は、このブロックを読み飛ばしても構いません。
① 財産分与と住宅ローンの問題
不動産に住宅ローンが残っている場合、不動産をどのように扱うべきかが問題となります。
住宅ローンが「オーバーローンの場合なのかアンダーローンの場合なのか」、「売却するのか、どちらかが住み続けるのか」によって、具体的に取るべき行動は異なってきます。
また、不動産を売却しないままオーバーローン(アンダーローン)かどうかを判断するには、不動産をどのように評価するのかという問題が出てきます。
どちらか一方の親族の援助により頭金を支払った、別居後に一方が住宅ローンを支払っていた等、夫婦の協力によらず住宅ローンを支払っている場合(特有財産といいます)、具体的にどのように処理すべきかという問題も頻繁に目にします。
このほか、住宅ローンの名義が夫婦連名の連帯債務であったり、夫婦の一方が連帯保証人となっている場合、この名義を外せないかということも切実な問題となります。
② 婚姻費用の問題
住宅ローンを夫婦の一方が支払っている場合、婚姻費用にどのように影響するかが問題となります。
③ 実際にどうやって売却するのか
いざ不動産を売却しようとなった場合、具体的にどのような流れで売却するかという疑問も現実的な問題として出てきます。
大半の方は、仲介業者に売買の仲介を依頼することになりますが、仲介業者の選び方、契約形態について理解しておく必要があります。
【財産分与と住宅ローン】具体的な解決方法
ここまで、どのような問題が発生するかを概観してきました。
ここからは、具体的にどのようなことを考えるべきか、どのように解決すべきかを解説していきます。
住宅ローンが残っていると売却できない
住宅ローンを借入れた場合、通常は、購入した不動産に金融機関の抵当権(ローンが支払われない場合に、不動産を競売することができる権利)が設定されます。
この抵当権は、ローンを完済するまでの間は消えずに残ったままとなります。
抵当権が残ったままですと、新たな買主との関係でも抵当権が残ってしまう結果、「競売されかねない物件」と扱われてしまいますが、このような危ない物件を購入する人はいませんので、不動産を売るまでの間に住宅ローンを完済し、抵当権を消しておく必要があります。
実務上、住宅ローンが残っている物件を売却する場合
- 新たな買主から支払われる売買代金で残住宅ローンを完済(余った金銭を売主へ支払)
- 抵当権の登記を抹消する手続
- 所有権登記を売主から買主へ移転する手続
を一挙に行うことが通常です。
アンダーローン/オーバーローンとは?
「残っている住宅ローンの金額」と「住宅の時価」を比較した際、
- 残住宅ローン>不動産時価・・・オーバーローン
- 不動産時価>残住宅ローン・・・アンダーローン
といいます。
アンダーローンの場合の処理
アンダーローンの場合、大きく以下の処理方法が考えられます。
- 実際に不動産を売却する場合
売買代金から残住宅ローンと諸費用を控除した残額を夫婦で分け合います。
実際に売れた金額から、発生した費用を控除して分け合いますので、最も分かりやすい方法であるといえます。
- 不動産を売却せず一方が不動産を持ち続ける場合
一方が不動産を持ち続ける場合、不動産の「実質的な価値」を算定する必要があります。
「不動産の実質的な価値」は、不動産の時価から残住宅ローンを差し引いた金額と考えます。
例えば、「不動産時価を3000万円、残住宅ローンを1000万円」とすると、この不動産が持つ価値は2000万円(3000万-1000万)となります。
そこで、実質的価値(例では2000万円)を他の預貯金と合算して評価し、財産分与額を調整します。
この方法は、実際の不動産のニーズに沿った解決が図れますが、実質的な価値をいくらと見るかで紛争となりがちです。
オーバーローンの場合の処理
オーバーローンの場合、売買代金だけでは住宅ローンを完済できないため、以下のような手続を取る必要があります。
- 実際に売却する場合
上で見たように、不動産を売却するには残った住宅ローンを完済する必要があります。
具体的には、売買によって入ってくる金銭で完済できない金額を何らかの方法で用意することになります。
不足額が小さい場合、手持ちの預金で支払うこともできるでしょう。手持ちの財産で支払えない場合は、親族からの援助や無担保ローンなど返済資金を用意する必要が出てきます。
なお、無担保ローンは住宅ローンよりも一般的に利率が高いため、利用にあたっては注意が必要です。
- 売却しない場合
売却しない場合、どちらが不動産の権利を持つかによって処理方法は異なります。
以下、不動産と住宅ローンの名義がいずれも夫である場合を例に考えていきます。
夫が不動産の権利を持ち、住宅ローンも夫が返済し続ける場合、特に手続きを取る必要はありません。
他方、妻に不動産の権利を移転した場合、住宅ローンの名義は夫のままとなります(自動的にローンの名義人が妻になることはありません。)。
ローンの名義を妻名義に変更することが自然ですが、変更に際しては住宅ローン会社(銀行等)の審査を通過する必要があります。
ローンの名義を夫のままとしておくことも可能ですが、夫が住宅ローンの返済をしなくなってしまった場合、不動産から出ていかなければならなくなってしまうというリスクがあります。
どのように不動産を評価する?
不動産を売却するまでの間は確定的な時価額が出てきません。
しかし、不動産の売却(見込み)額によって売るかどうかが決まりますので、売買前に時価額を把握しておきたいと思う方が多いと思います。
まず手始めに、不動産仲介業者に無料の机上査定を依頼し不動産の時価額を算定してもらう方法があります。
机上査定は、家の中を見ることなく、周辺の取引価格、同等の建物を新たに調達する場合に必要な原価(再調達原価)などを参考に、不動産の価格を査定するものです。
机上査定は、「大まかな」価値を算出するものですので、仲介業者ごとに金額の幅は出ますし、中には同じ物件の査定額が、業者によって2倍以上の開きが出たこともあります。
よって、一社だけでなく複数の仲介業者の机上査定を取ってみて比較することをお勧めします。
夫婦でそれぞれ机上査定を持ち寄ったものの金額に折り合いが付かない場合、不動産鑑定士に鑑定を依頼する方法があります。
不動産鑑定士は、不動産の適正な価値を鑑定する国家資格を持つ専門職であり、鑑定理論に基づき価値を算出するため、机上査定よりも信頼性は高いです。
ただし不動産鑑定士に依頼をする場合、簡易な鑑定であっても20万円程度の費用が発生するため実際に鑑定依頼をする場合は、費用の分担割合を決めておく必要があるでしょう。
購入代金に特有財産が含まれる場合
不動産を購入するに当たり、夫婦の一方又は双方の親族から援助を受け、頭金を支払うことがあります。
また、夫婦が別居した後、住宅ローンを夫婦の一方が支払い続けることもあります。
そもそも、財産分与の主な役割は、夫婦が協力して築いた財産を分け合うこと(清算)ですが、親族の援助や別居のローンの支払いは、「夫婦が協力」したものとはいえないので、財産分与に当たっては特別な考慮が必要となります(特有財産といいます)。
特有財産を財産分与に当たってどのように考慮すべきかは難しい問題ですが、一例として、その財産を取得する費用の中に占める特有財産の割合を考慮する方法があります。
A、B夫妻は、5000万円で不動産を購入した。
AB夫妻は別居をし、別居後、Aは単独で500万円のローンを支払った。
その後、不動産を4000万円で売却したが、3000万円のローンが残っていたので1000万円の余剰が出た(実際は仲介手数料、登記費用等の諸費用が発生しますが、分かりやすくするため単純化しています)。
特有財産(夫婦の協力によらずに得られた財産)は、Aさんが別居後に単独で支払った500万円です。
この500万円が不動産の取得費用に占める割合は、10%(500万÷5000万)ですので、不動産の売得金のうち、Aさんが独占できる割合も10%の100万円となり、残りの900万円を等しい割合で分けることとなります。
よって、双方の取り分は、Aさん:550万円、Bさん:450万円となります。
上記はあくまで考え方の一例であり、特有財産全額を売得金から控除する方法もあります。
個別の事情により、妥当な解決策は異なります。
連帯債務、連帯保証を変更できないか?
住宅ローンを組む際、夫婦の一方の名義としつつ、他方を連帯債務者としたり、連帯保証人とすることがあります。
離婚に際し、不動産を売却をせず住宅ローンが残ったままとなる場合に問題となります。
どちらが住宅を持ち、ローンを支払うかに分けて見てみましょう。
住宅と住宅ローンの名義が夫、妻が連帯保証人
離婚後も夫が住宅の名義を持ち、ローンも夫が払い続ける
妻の連帯保証を外すにはどうすればいいか?
夫がローンを払い続ければ妻に影響は出ませんが、夫がローンの支払いを怠った場合、妻にローン残額の請求が来てしまいます。
妻としては、連帯保証人のままでいることは不安なので、連帯保証人から外してほしいと希望するでしょう。
このような場合、妻を連帯保証人から外す交渉を住宅ローン債権者である金融機関(銀行、信用金庫等)と相談することになります。
「離婚するので」という理由で無条件に連帯保証人を外してくれることは基本的になく(余程、夫の資力が豊富であるとか、ローン残額が不動産価値と比べて少ないといった事情があれば別です。)、代わりの保証人を用意するか、残ローンの一部又は全部をまとめて支払うことを条件とされることが多いと思います。
では、以下の場合はどうでしょうか?
住宅と住宅ローンの名義が夫、妻が連帯保証人
離婚を機に、妻が住宅の名義を引き受けるため、住宅ローンの名義も妻にしたい
どうすればいいか?
住宅ローンの名義変更は、金融機関の了承が必要となります。
夫婦双方の収入、残ローン額、不動産の価値によって結論は異なりますが、一般的に金融機関が名義変更を了承することは稀です。
了承が得られない場合、妻が新たに住宅ローンを組み、借り入れた金銭で夫名義のローンを完済するという方法が取られます(ローンの借り換え)。
当然、新たにローンを組むこととなるため、一からローンの審査を受けることになります。
ローンの審査基準は一般に開示されておらず、不合理な判断をされることがあるため、お困りの方は弁護士と共に対応されることをお勧めします。
過去、私が担当したケースで金融機関の不合理な対応にあったケースを以下のページでご紹介しています。
婚姻費用と住宅ローン
住宅ローンを支払っている状態で別居に至った場合、婚姻費用(一方が他方に支払う生活費)の金額を調整する必要が出てきます。
住宅ローンをどちらが支払っているのか、どちらが住宅に居住しているのか(又はどちらも住んでいないのか)によって答えは違ってきます。
この全てのパターンに分けて詳細に解説したページを別に作っていますので、ご覧ください。
どのように売却するのか
離婚を機に不動産を売却することになったとして、実際にどうやって売却するのかと言われると、即答できる方は少ないのではないでしょうか?
自分で買い手を見つけられる方は少なく、大半の方は不動産仲介業者に依頼し、不動産の買い手を見つけることになります。
仲介業者に依頼することを前提にご説明していきます。
仲介業者をどのように選ぶか
インターネットで「不動産 売買」などと検索すると、多くの仲介業者のページが出てきます。
また、駅前などで不動産業者の店舗を見られた方もいらっしゃるでしょう。
業者の数が多いだけに「どの業者に依頼をすべきか」と悩んでしまいます。
業者の良し悪しを判断することは難しいですが、複数の業者から不動産の査定を取ってみる、近隣の取引状況を聞いてみるなどして、自分に合った業者を選ぶ必要があります。
また、業者によっては、「プロのカメラマンが物件写真を無料で撮影してくれる」、「住宅診断(ホームインスペクション)を業者の負担で行える」など独自の特典を用意している業者もありますので、特典の有無も確認してみるといいでしょう。
「大手だから」、「近隣だから」という理由だけで判断することはできません。
大手の会社の場合、顧客が多数訪れますし、複数の地域に店舗を構えているため、中小会社と比較すれば集まる情報は多くなるでしょう。
しかし、地域密着型の中小不動産会社の方が、その地域に限った取引実績は多く、その会社にしか集まらない情報というものもあります。
どちらのタイプが合うかは個別の状況によって異なるでしょうから、複数の会社の話しを聞いて判断する必要があるでしょう。
仲介業者との契約形態は3種類
不動産会社に売買の仲介を依頼する場合、契約の形態は「一般媒介」、「専任媒介」、「専属専任媒介」の3種類があります。
各契約の違いは、「一社だけの契約か複数社との契約が可能か」、「自分で取引相手を探すことが許されるか」等の点で異なってきます。
それぞれの特徴は以下の表のとおりです。
一般媒介契約 | 専任媒介契約 | 専属専任媒介契約 | |
---|---|---|---|
① 複数社との契約 | 〇 | ×(一社のみ) | ×(一社のみ) |
② 自己発見取引(自分で取引先を探す) | 〇 | 〇 | × |
③ 依頼主への報告義務 | なし | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
④ 指定流通機構(レインズ)への登録義務 | なし | 契約日から7日以内(休業日除く) | 契約日から5日以内(休業日除く) |
⑤ 契約の有効期間 | なし | 3か月以内(都度更新) | 3か月以内(都度更新) |
一般媒介の場合、A社と同時にB社にもC社にも媒介を依頼することができるのに対し、(専属)専任媒介の場合はA社と契約したら、他の会社とは契約できないことになります。
確かに一般媒介契約は、複数の不動産会社と契約できるため、早く買手が見つかるようにも思えます。
一般媒介契約は顧客にとっては自由度の高い契約である反面、不動産会社にとっては厳しい契約であるともいえます。
というのも、仲介手数料が発生するのは「不動産売買が成立した時点」です。
一般媒介契約で複数の会社が関与している場合、報酬を得られるのは売買契約まで至った一社だけであり、他の会社は一切手数料をもらえません。
よって、不動産会社の視点でいえば、営業活動の仕事量と手数料が得られる可能性、得られる手数料の金額が見合っている必要があります。
例えば、あまり営業活動をしなくても高額で売却できる人気物件は、一般媒介で行いやすいといえます。
物件によっては「一般媒介では対応できません」と言われることもあります。
また、専任媒介契約であれば、「ホームクリーニング」、「プロカメラマンによる物件写真の撮影」、「売れ残った場合の買取保証」などの特典があるものの、一般媒介ではこれらの特典が得られないということもあります。
よって、一概に一般媒介が優れているということはできず、具体的な状況に合わせて契約形態を選びましょう。