【令和6年法改正】嫡出否認の訴えを提起できる人、流れを分かりやすく解説

令和4年12月10日、民法の嫡出推定に関する制度が改正され、改正法が令和6年4月1日から施行されました。

実は、大幅な法改正がされたのですが、世間的にはあまり話題になっておらず、インターネット上でも改正前の情報がアップデートされず残っているページも散見されます。

そこで、このページでは、令和6年4月1日から施行された嫡出推定、嫡出否認制度について解説していきます。

嫡出否認については、申立てできる人の範囲が広がっただけでなく、出訴期間(訴え出ることができる期間)についても変更がされました。

本ページを読むことで、嫡出推定制度の仕組み、嫡出否認の概要、流れを全て理解することができるはずです。

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目次

嫡出推定制度とは

生まれた子の父が法律上誰であるのかを、出生した時期によって推定することを嫡出推定といいます。

嫡出推定は、

①婚姻の成立した日から200日を経過した日より後に生まれた子

②離婚等により婚姻を解消した日から300日以内に生まれた子

を夫の子と推定するとしています。

ここで問題となるのが、②の離婚から300日以内に生まれた子が元夫の子と推定されてしまうという部分です。

この状況で出生した子が、元夫以外の男性との子だったとしても、出生届は元夫の子として提出しなければ受理されませんでした。

元夫の子として届出することを嫌がる母が出生届を提出しないということが起こり、子の無戸籍者問題の原因となっているとの指摘がありました。

そこで、法律の改正により、②の例外として、

③婚姻解消の日から300日以内に生まれた子であっても、母が前夫以外の男性と再婚した後に生まれた場合、再婚後の夫の子と推定する

との規定が新設されました。

嫡出否認の訴えとは

上記の規定で、嫡出の推定を受ける子が実際は自分の子ではない場合、これを否定するためには「嫡出否認の訴え」という手続を取る必要があります。

例えば、以下のような場合は、嫡出否認の手続を取る必要があります。

  • 婚姻届を提出してから7か月後(210日)に出生した子が、他の男性の子であることが出生後に判明した
  • 婚姻時点で自分の子ではないことを知っていたが、温情から自分の子として出生届を提出したが後悔している
  • 相手の不貞が原因で離婚をしたが、離婚後300日以内に不貞相手の子を出産し、自分の子として出生届が出されてしまった
  • 再婚した妻が出生したが、子の父は自分ではなく元夫だと思う

令和6年法改正のポイント

令和6年4月から施行される法律で改正されたポイントは以下のとおりです。

① 嫡出推定の改正

上で見たように、母が再婚した場合に再婚後の男性と子と推定する規定が新設されました。

② 女性の再婚禁止期間の廃止

これまで女性は離婚後100日間は再婚することができませんでした。

この100日間に生まれた子は自動的に前夫の子と扱われてしまうため、母がこれを嫌がって子の出生届を出さないという、無戸籍問題の原因となっていました。

そこで、法改正により女性が再婚できない期間を廃止。子の父の特定が問題となった場合は、DNA鑑定等を行い、科学的に特定することが想定されています。

③ 嫡出否認権が夫だけでなく、子・母にも認められることに

これまで、嫡出否認の訴えを提起できるのは、子の父と推定される夫だけでした。

これは、嫡出否認権を主張できる人を制限することで、出生した子の地位が不安定にならないよう配慮するという考え方によるものでした。

しかし、こちらも子の無戸籍問題の一因となるとの指摘を受け、子・母も嫡出否認の訴えを提起することが認められるようになりました。

ただし、子・母が嫡出否認権を行使できるのは、「令和6年4月1日以降に出生した子」とされていますが、例外的に令和6年4月1日以前に生まれた子も、この日から1年以内であれば、嫡出否認権を行使することが可能とされています。

令和6年4月1日以前に出生した子について、子・母から嫡出否認の訴えを提起したい場合、提起できる期間が限られているので、早急に対応してください。

④ 出訴期間が1年→3年に

これまで、「子の地位の早期安定」という考えから、嫡出否認を訴え出ることができる期間(出訴期間といいます)は、「子の出生を知ってから1年」とされていました。

しかし、1年間という期間は非常に短いです。法改正後は、母にも否認権が認められることになりましたが、母は、出産後まもなく否認権を行使しなければならなくなってしまうため、現実的な期間設定とは言い難いものでした。

そこで、出訴期間が「3年」に変更されました。

この「3年」は、訴える人によって、期限の始まる時点が異なるので、以下詳しく解説します。

嫡出否認を提起できる人、相手、出訴期間の整理

嫡出否認の制度について、「嫡出否認の訴えを提起できる人(否認権者)」、「訴えの相手方」、「出訴期間」を整理してみます。

否認権者相手方出訴期間
・父子又は親権を行う母父が子の出生を知った時から3年以内
・子 ※1(元)夫子の出生の時から3年以内
・母 ※2(元)夫子の出生の時から3年以内
・元夫※3再婚後の夫及び子又は親権を行う母母の再婚前の夫が子の出生を知った時から3年以内

※1 親権を行う母、親権を行う養親、未成年後見人は、子を代理して申立てすることが可能

※2 母による否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときを除く。

※3 元夫による否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときを除く。

 注意点

子が、(元)夫と継続して同居した期間が3年未満である場合、子は21歳になるまで嫡出否認の申立てをすることができます(民法778条の2)。

この場合でも、母が代理して申立てをする場合は、子の出生から3年以内でしか申立てができないので注意が必要です。

嫡出否認の訴えの流れ

嫡出否認の具体的な流れを見ていきましょう。

① 調停の申し立て

嫡出の問題を当事者間の合意(裁判所を通さない合意)で解決することはできません

また、最初から裁判手続を利用することも許されておらず、調停手続が出発点となります。

調停を申し立てる先の裁判所は、「相手の住所地の家庭裁判所」又は「双方の合意で定めた家庭裁判所」です。

例えば、「自分が岐阜県大垣市に住んでおり、相手が愛知県一宮市に住んでいる」というケースでは、名古屋家庭裁判所一宮支部が申し立て先となります。

どの裁判所が管轄となるかはこちらのページで調べることができます(相手の住所地を選択してください)

② 調停での合意

調停は、裁判所内で当事者が話合いをする手続です。

話合いの結果、

嫡出否認の審判を受けることについて合意が成立

・当事者双方が嫡出否認の原因について争わない

という条件が整ったときは、裁判所が必要な事実を調査し、問題がなければ双方の意向に沿った審判を出すことができます(家事事件手続法277条1項)。この審判が確定すると、確定した判決と同じ効力を生じます(同281条)。

逆に、調停で話し合いがつかない場合、調停は不成立となり、次のステージである裁判へ進みます。

③ 裁判

調停が不成立となった場合、裁判を申し立てる必要があります。

自動的に裁判へ移ることはないので注意しましょう。

なお、裁判を申し立てることができる期間(出訴期間)は法律上決まっています。

調停が不成立となった場合、その通知を受けた日から2週間以内に裁判を提起すれば、調停を申し立てた時に裁判の提起があったものとみなされます(家事事件手続法272条3項)が、逆にこの期間を経過してしまうと、その時点で裁判を申し立てたこととなるので、出訴期間の問題がクリアできず、訴えが却下されてしまうこともあるので注意しましょう。

④ 判決が確定した後の手続き

判決が確定したの後は、判決書と確定証明書を添付資料として戸籍訂正申請書を提出します(戸籍法116条)。

役所で審査の上、問題なければ戸籍に反映されます。

よくある質問

親子関係の判断では、DNA鑑定が非常に重要だと聞きました。しかし、相手がDNA鑑定を拒否しているため協力が得られず鑑定することができないのですが、どうすればよいでしょうか?

確かにDNA鑑定は有力な手段ではありますが、必須の方法ではありません。

生物学的なつながりの有無を判定する最も有力な手段はDNA鑑定です。しかし、DNA鑑定は鑑定の資料が必要となるため、相手の協力が得られなければ行うことができません。

では、協力が得られなければそれまでかと言うとそうではありません。

具体的な状況次第では生物学的つながりがないと考える方が自然であって、DNA鑑定がなくても嫡出否認が認められることもあります。

DNA鑑定に必要な費用はどの程度でしょうか?また、誰が負担することになりますか?

10万円~20万円程度が相場です。

まず、鑑定には、裁判所外で行う私的な鑑定と、裁判所の手続内で行う鑑定があります。

私的鑑定の場合、自分で業者を選定し、費用も交渉できるため、相場より安い金額で行うこともあり得ます。

しかし、最終的に私的鑑定の結果を裁判所が採用するとは限らず、採用されなければ私的鑑定に要した費用は無駄な出費となってしまいます。

他方、裁判手続での鑑定は、業者の選定も裁判所が行うことから、鑑定の結果は最大限尊重されます。業者に対する支払いは、手続の申立人が支払うこととされ、金額としては10~20万円程度と設定されることが多いと思われます。

父子関係を否定する手続にはどのようなものがありますか?

「親子関係不存在確認」、「認知無効の請求」があります。

嫡出否認は、嫡出の推定が及ぶ場合(①婚姻日から200日以降に生まれた子or②婚姻後300日以内に生まれた子、③②の場合であって母が再婚した後に出生した子)が対象です。

逆に、これら以外の場合は、嫡出推定が及ばないため、嫡出否認の範囲外となります。

この他、形式的には上記①~③に該当するものの明らかに父子関係があり得ない場合

例えば、

「離婚後1か月後に出生したが(②に該当)、夫は離婚の2年前から海外に居住しており、一切接触がなかった」というような場合も、嫡出否認の対象とはなりません。

このように、嫡出否認の対象とならない場合で親子関係を否定したい場合は、「親子関係不存在確認の訴え」という手続を利用します。

親子関係不存在確認の訴えには出訴期間の制限がないため、嫡出否認と比べ利用しやすい手続であるといえます。

また、一度した認知は原則として取り消すことはできませんが、認知した子と自分が生物学的なつながりがないことが後に分かった場合などは、認知無効請求をすることにより、認知の効力を否定する手続を利用します。

離婚、慰謝料との関係

婚姻後に出生した子が、自分の子じゃないことが判明した場合、嫡出否認の手続のほか、離婚問題に発展することが想像できます。

自分の子ではない以上、懐胎が婚姻後であれば不貞行為を行ったことが強く推定されますので、慰謝料の請求も可能です。

不貞行為等を問題とせずとも、第三者との子を知らない間に実子とされていたこと自体、夫婦関係の信頼を破壊するのに十分な行為といえるでしょう。

嫡出の問題は早めに弁護士に相談すべき

ここまで嫡出否認の手続について解説してきました。

確かに、法改正によって、以前と比較すると否認権者の範囲、出訴期間の点で利用しやすい手続になりましたが、親子関係という一生の問題を決定することを考えると、簡単に利用できるものとは言い難いです。

また、令和6年4月1日以前に出生した子についても、限られた期間で嫡出否認の申立てをする機会が与えられましたので、お悩みをお持ちの方はすぐにフォレスト法律事務所までご相談ください。

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この記事を書いた人

フォレスト法律事務所代表弁護士。
弁護士資格の他、ファイナンシャルプランナー、証券外務員一種、宅地建物取引士の資格を保有しており、不動産を含む経済的な問題を得意としています。
離婚・男女問題について、豊富な経験をもとに分かりやすく解説します。

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