離婚調停、婚姻費用分担調停、面会交流調停など、家庭裁判所での各種調停を検討している方にとって、「弁護士に頼るべきか、それとも自分で対応すべきか」という悩みは非常に大きなものです。
調停は、裁判とは異なり話し合いを重視した解決方法ですが、そのプロセスで弁護士が果たす役割については様々な意見があります。「調停には弁護士が不可欠だ」との意見もあれば、「調停までは自分で行い、裁判に進展した場合に弁護士を依頼すべき」といった意見もあります。こうした多様な意見がある中で、どのように対応するのが最も良いのか、迷ってしまう方も少なくありません。
本記事では、弁護士なしで調停に臨むことが不利になるケースや、弁護士を依頼することのメリットとデメリットについて詳しく解説します。
特に、調停の種類ごとに弁護士なしでの対応が適切かどうか、また、弁護士を依頼する際のポイントを中立的な立場から整理しました。これにより、どのような状況で弁護士を利用すべきか、また自分で対応可能なケースについて明確に理解することができます。
弁護士なしで調停を行うことの基本知識
調停は、法的なトラブルを抱える当事者同士が話し合いによって解決を目指す手続きであり、裁判とは異なる特徴を持っています。
ここでは、弁護士に依頼せずに調停に臨む場合の基本的な知識を解説します。
調停とは何か?
調停とは、家庭裁判所で行われる手続きの一つで、主に夫婦間や親子間の紛争を解決するために利用されます。
男女2名の調停委員が間に入り、双方の意見を聞き取りながら、合意に向けた話し合いを進める場です。調停の目的は、話し合いを通じて円満な解決を図ることにあります。
調停の基本的な流れ
調停の基本的な流れは以下の通りです。
- 調停の申立て: まず当事者の一方が家庭裁判所に調停を申し立てます。
- 調停期日: 家庭裁判所が指定した期日に双方が出席し、調停が開始されます。
- 調停委員による仲介: 調停委員が双方の言い分を聞き取り、合意に向けた助言や調整を行います。調停期日は何回か行われますので、毎回次回期日の日時を調整し、次回までに準備する事項が伝えられます。
- 合意の成立または不成立: 調停での協議を繰り返した結果、両者が合意に達した場合は調停調書が作成されます。
他方、合意に至らない場合は調停は不成立となって調停は終了します。終了した後ですが、婚姻費用や面会交流の調停は自動的に審判に移行します。他方、離婚調停は自動的に審判や裁判に移行しませんので、別途裁判を申し立てる必要があります。
調停と裁判の違い
調停と裁判の大きな違いは、裁判が「証拠と法律によって、請求の当否を明確に決定する」のに対し、調停は「話し合いによって、合意を目指す」という点にあります。
裁判では、裁判官が法律に基づいて判決を下しますが、調停では当事者間の合意が重視されます。調停でも法律は参照されますが、当事者が合意すれば法律と異なる結論を取ることも可能ですので、具体的な事情に即した解決をすることができます。
弁護士なしでの調停参加のメリット・デメリット
弁護士に依頼せずに調停に参加することには、いくつかのメリット・デメリットがあります。
まずはメリットから見ていきましょう。
弁護士なしで調停参加するメリット
① コストの削減
弁護士に依頼した場合の最大のデメリットは弁護士の費用・報酬です。
弁護士なしで調停に参加することで、この費用を抑えることができ、最大のメリットといえるでしょう。
② 全てを自分で行うことができる
弁護士に依頼する場合、弁護士に対してこれまでの事情や自分の要望を伝える必要があります。
弁護士とコミュニケーションを重ねることで弁護士も活動をすることが可能となるため、「弁護士が自動的に全てのことをやってくれる」ということはありません。
また、調停に提出する書面も弁護士が作成します。この書面に対して、依頼者から要望事項を伝えることはもちろん可能です。しかし、微妙なニュアンスの違いを伝えきれないと感じることはあり得ます。
書面の作成や調停での所作について、全て自分で対応できるという方にとっては、上記の煩わしさを捨て、自分で全ての対応を完結させてしまえることは大きなメリットであるといえます。
弁護士なしで調停参加するデメリット
一方で、弁護士なしでの調停参加にはデメリットも存在します。
① 法律知識の欠如
調停が裁判と異なり話合いの場であるとはいえ、法律の決まりは当然の前提とされます。
調停の話合いは、「法律によるとこうなるが、どのように解決するか」という形で進むため、法律の知識がなければ話合いの方向性を決めることすらできないのです。
「調停委員が法律のことは教えてくれるのでは?」というご質問を頂くことがありますが、答えはNOです。
調停委員は、双方の意見を聞いてこれを調整する役割であって法律知識を教えてあげる職責はありません。また、調停委員が法律知識を有しているとは限らず、誤った法律知識が当事者に伝えられてしまい、弁護士が介入して軌道修正するということも少なくありません。
② 第三者としての視点を持つことができない
互いの主張が激しくぶつかる場合、どうしても感情的になってしまいます。
また、調停が長期間、長時間に及ぶと、疲労感やストレスから「早く解放されたい」という気持ちが大きくなり、良くない結論でまとめてしまいたくなります。
私が代理人として調停に参加していても、依頼者が感情的になってしまったり、非常に不利な内容で終わらせてしまいたいと言われる場面を目にすることがあります。
そのようなとき、第三者的な目線で「ストップ」し、弁護士が対応することで、冷静な判断が可能となります。
このように調停を少し離れた第三者の目線で見ることができないということは大きなデメリットといえるでしょう。
③ 精神的な精神的なコントロールも自分で行う必要がある
面会交流調停のように性質上ストレス負荷の大きいもの、離婚調停でも離婚原因や責任追及のやり取りをしていると、誰でも精神的に落ち込みます。
弁護士なしで調停に臨むということは、このようなストレスを全て一人で抱え込むことを意味しますので、余程メンタルの強い方でない限り乗り越えるのは相当厳しいでしょう。
調停の種類別に見る弁護士なしでの調停のポイント
調停にはさまざまな種類があり、弁護士に依頼せずに参加する場合、それぞれに特有のポイントを押さえておくことが重要です。ここでは、離婚調停、婚姻費用・養育費調停、面会交流調停に分けて、弁護士なしで進めることができるかどうか見ていきましょう。
離婚調停(夫婦関係調整調停)
離婚調停は、夫婦間の離婚に関する条件や取り決めを話し合う場です。
離婚することだけでなく、親権、財産分与、慰謝料など協議される範囲も広くなる傾向があります。事情によって弁護士なしで進められることもあれば、そうでないこともあります(以下「〇」が弁護士なしで進められる事情、×が弁護士が必要な事情です)。
◯ もめていない
離婚すること、離婚条件について大きくもめていなければ、弁護士なしで対応できる可能性は高くなります。
ただし、離婚協議が整わず調停に移行しているのですから、もめていない離婚調停は多くないでしょう。
◯ 分け合う財産が限られている
財産分与の対象となる財産が限られていれば、提出すべき資料も少なく、処理も単純化できる可能性があります。
また、分け合う財産が限られている場合、弁護士にかかる費用がかさんでしまい、赤字となってしまう可能性も高まります。
× 共有財産に不動産が含まれている
共有財産に不動産が含まれている場合、住宅ローンをどうするか、売却するのか一方が住み続けるのか、売却するとしてどのように売却するのかといった問題が出てきます。
不動産の売却は大半の方にとって初めてのことですが、離婚調停と並行して不動産を売却するのは容易ではありません。
× 特有財産、慰謝料が争点となっている
特有財産の主張や慰謝料の請求は調停の段階でも法的な議論となってしまい、正確な知識が必要となります。
インターネットや弁護士の無料相談を重ねたとしても的確に対処することは難しいです。
婚姻費用・養育費調停
婚姻費用や養育費の調停では、夫婦間や親子間の経済的な支援について協議する手続です。
離婚や親権者変更など、他の調停と合わせて行われることもあります。
〇 算定表だけで解決できる場合
婚姻費用、養育費は標準算定表という表によって金額を算定します。
この算定表だけで解決できるケースであれば弁護士なしのまま進めることも十分可能です。
× 算定表だけで解決できない場合
逆に算定表だけで解決することができないケース、例えば
- 事業者や経営者の収入算定
- 高所得者のケース
- 双方が子どもを養育しているケース
- 住宅ローンの支払いがあるケース
などは算定表だけで解決することができません。
適切に処理するには専門的な知識が必要であり弁護士なしで対応することは困難でしょう。
面会交流調停
面会交流調停は、別居中(離婚前後)の親子の面会交流について取り決めを行う場です。
× 基本的に弁護士の関与が望ましい
面会交流が実施されていない期間が長期化すると親子関係の修復が困難となるため、早急に解決する必要があります。
面会交流調停では、面会交流の実施や実施方法(直接・間接の選択、頻度、場所、引渡し方法等)について激しく争われます。具体的な状況に応じて最適な方法を選択し続けることは弁護士であっても難しく、弁護士の関与が望ましいです。
弁護士なしで乗り切れるべきものでなければ弁護士への依頼を
以上、弁護士なしで調停を行うことができる場合とそのポイントについて解説してきました。
弁護士なしで対応できる調停については、弁護士が関与する必要はありませんし、コストを考慮すれば弁護士に依頼しない方が良いです。
しかし、そうでないケースであれば弁護士に依頼することが望ましいです。
この判別は簡単ではありませんので、どちらか迷いのある方はお気軽にご相談下さい。