離婚や面会交流などの調停で「調停委員を味方につけた方がいい」と言われることがあります。
この「味方につける」という言葉は、昔から言われていたことなのですが近年聞くことが増えた気がします。
私が法律相談を行う中でも「調停委員を味方につけた方が有利になりますよね?」、「こんなこと言ったら調停委員の心証が悪くならないでしょうか?」などと言われる方が増えました。
結論から言ってしまえば、「調停委員を味方につけようと考える必要は一切ない」です。
実は、私自身、弁護士になってからしばらくの間は、「調停委員、裁判官は味方にすべき」と考えて行動していましたが、この考えが原因で何度か手痛い失敗をしてしまった経験があります。
そこで、このページでは、「調停委員を味方につける」という考え方がなぜまずいのかを切り口にして、調停を有利に進めるポイント、不利になってしまうポイントについて解説していきます。
これから調停が始まる方も、既に調停が始まっており進め方に悩んでいる方にとっても有益な内容となっているはずです。
調停、調停委員とは?
調停、調停委員とは何かという根本的な部分から見ていきましょう(意外と知られていない部分です)。
調停とは
調停とは、私人間での紛争を解決するために,裁判所(調停委員会)が仲介して当事者間の合意を成立させるための手続をいいます。
重要なのは、調停があくまで「当事者間の合意」を目指すものであって、「こうしなさい」と命令するものではないということです。
調停委員とは
調停委員は,当事者双方の話合いの中で合意をあっせんして紛争の解決に当たっています。調停は,どちらの当事者の言い分が正しいかを決めるものではないので,調停委員は,当事者と一緒に紛争の実状に合った解決策を考えるために,当事者の言い分や気持ちを十分に聴いて調停を進めていきます。
調停委員は,調停に一般市民の良識を反映させるため,社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人の中から選ばれます。具体的には,原則として40歳以上70歳未満の人で,弁護士,医師,大学教授,公認会計士,不動産鑑定士,建築士などの専門家のほか,地域社会に密着して幅広く活動してきた人など,社会の各分野から選ばれています。
裁判所HP(https://www.courts.go.jp/saiban/zinbutu/tyoteiin/index.html)
このように、調停委員は、当事者の言い分が正しい/正しくないを決めるものではなく、「当事者の言い分や気持ちを聴く」役割を持つ人です。
よって、当事者のどちらかに肩入れすることは許されず、自分の意見を当事者に押し付ける権限もありません。
「調停委員を味方につける」と考えるべきでない理由
調停は、調停委員を間に挟んで話合いをする手続ですので、調停委員との関係が良好である方が好ましいのは確かです。
そこで、まず「調停委員を味方にすべき」と一般的に言われる理由を見ていきます。
調停の雰囲気を良くして話しやすい環境を作る
調停委員も人間ですので、当事者との関係が良好であれば自然と話しやすい雰囲気になります。
ただでさえ、調停という楽しくない場で話をしなければならないのですから、せめて話しやすい雰囲気だけでも作りたいと考えることは当然です。
その他のメリットはない
「調停委員を味方にする」ことについて、上記のとおり話しやすい雰囲気を作るという以外のメリットはありません。
法律相談でお話を聞いていると調停委員を味方にすることによって、
- 相手の言い分よりも自分の言い分を聞いてくれるようになる
- 頑張って相手を説得してくれるようになる
という状況を期待されている方もいるようですが、残念ながらこのようなことはありません。
上で見たように、調停委員はあくまで中立的な立場で双方の話を聞いて合意の成立を目指す立場にありますので、どちらかの味方について、一方に肩入れしたり説得するようなことがあればかえって大問題です(自分がやられたら嫌ですよね)。
また、冒頭で見たとおり、調停はあくまで話合いの手続であって、裁判所が「こうしなさい」と命令する手続ではありませんので、仮に調停委員がどちらかに肩入れして説得を試みたとしても、他方が「嫌だ」と言えば、それで終わってしまいます。
このように「調停委員を味方につける」ということに殊更大きなメリットがないことは分かると思います。
「調停委員を味方に」のデメリット
逆に「調停委員を味方に」と考えた場合のデメリットも存在します。
調停では、調停委員が様々な提案をしてきます。提案の中には、合理的なものもあれば、到底受け入れられないような酷いものまで混ざっています。これは調停が相手の言い分も聞きながら調整をしていくという性質上、仕方のないことです。
調停委員の提案が、自分にとって受け入れられないものだとしても「調停委員を味方にしたい」と強く思っていると「提案を拒否する=調停委員から嫌われる」という感覚になってしまいます。
その結果、調停委員の提案をはっきり拒絶することができず、そのまま話が進んでしまい、気付いたら意に反する結果で終わってしまったということは何ら珍しいことではないのです。

ご主人は、財産分与として100万円を支払うと言っています。



(え!?貯金が1000万円もあるのになぜ100万円だけなの・・・)



少なすぎると思いますし、生活していけないのですが・・・



あなたが離婚を望んでいるわけですし、少しは譲歩しないと離婚できませんよ?



(これ以上否定的なことを言ったら、嫌な印象を持たれそう・・・。どうしよう・・・)



・・・・・・



分かりました。100万円で大丈夫です。
このように、味方にしたい、敵にしたくないという気持ちから、遠慮が積み重なってしまい、自分が望まない結果となってしまっては本末転倒です。
裁判所が誤った対応をすることもある
裁判所というと、絶対に正しい公平な存在であり、間違えることなどないと思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は、弁護士の中にも「裁判所は正しい」、「裁判所との関係は良好にしておくべきである」と考えている人は一定数おり、かくいう私も、新人弁護士の頃からこのような指導を受けており「裁判所=正しい」と考えている節はありました。
しかし、下記ページのような裁判官の信じ難い対応に接した他、結論を強要する調停委員に接したことなどをきっかけに、私も「裁判所が間違えることもある。間違った対応には毅然とした対応を取る必要がある」ことを実感しました。


結局は、一社会人として常識のある対応をすればよい
このように調停委員を味方にするということを過度に重視する必要がないことはお分かりいただけたと思います。迎合する必要もなければ、敵対するべきでもなく、一社会人として節度を持って接するという当たり前のことをするだけで十分です。
自分の意見を言うことで「嫌われる」、「心証が悪くなってしまう」と気にするあまり、自分の意見を封じてしまうことのないようにしましょう(ただし、この後記載するポイントには注意してください)。
インターネット上には調停に関する情報はあふれているものの、抽象的な内容だったり、内容が誤っているもの、誤っているとまではいえないものの個人の1回の体験に過ぎず再現性が低いものも散見されます。情報に惑わされることなく、冷静に対応することが重要です。
調停で不利になる行動、言動
では、実際に調停でどのように行動する必要があるでしょうか?
ケースによって、振舞い方、取るべき行動はことなりますが、多くの場合に当てはまる最大公約数的な要素を挙げていきます。
まずは、調停で不利になってしまう行動、言動について見ていきましょう。
① 感情に任せて話をする
調停では、双方が何らかの不満を持っているため、互いに完全に満たされているということはあり得ません。
話をしている中で相手や裁判所に対する不満や怒りが溢れてしまい、感情的に話をしてしまいたくなることもあるでしょう。
しかし、感情的な話というのは、聞く側(ここでは調停委員を指します)からすると内容が把握できず、「怒っている」ということしか伝わりません。
怒っている相手に対して、「話している内容が分からない」と指摘してくれる調停委員は少数であり、大半の委員は理解していないものの「分かりました」と言って話を切ってしまうでしょう。
調停委員は、「非常に怒っている」ということだけ相手に伝えますが、協議が進展するはずもなく、調停は何も決まらないまま終了してしまうことになります。
② 相手の言い分を聞かない、理解しない
自分の考えや利益と衝突する相手の言い分(主張)を聞くことは非常にストレスです。
よって、相手の主張をじっくり聞く、まして理解をするということは非常に難易度の高い行為であるといえます。
しかし、相手が主張している内容はもちろんですが、なぜそのような主張をするのか(金銭的な理由なのか、心情的な問題なのか)、何に重きを置いているのかを理解することができると、これを前提とした戦術を組むことが可能となります。
逆に、相手を理解せずに自分の主張だけを通そうとすると、意見がぶつかるだけで、解決できずに終わってしまいます。
③ 解決を急ぎすぎる
調停が続くと、精神的なストレスや疲労感が大きくなり、誰しも「早く終わらせたい」と願うものです。
しかし、「早く終わる」ということを最優先にすると、相手の言い分をそのまま呑むしかなく、後々の後悔につながりかねません。
「早く終わらせる」ということは重要ですが、最も大事にすべき条件をないがしろにしないように注意しましょう。
調停で有利になるポイント
それでは、どのように行動すれば調停で有利になるのか見ていきましょう。
具体的な状況によっては難しいものもありますが、即実践頂きたいことばかりです。
① 今、何の話をしていて、何でもめているのか理解して話をする
離婚調停の中では、財産分与や慰謝料、養育費などの金銭問題から親権、面会交流などお子さんの問題などが同時に協議されます。
また、財産分与と一口に言っても、「特有財産に該当するのか」、「財産をいくらで評価するのか」、「財産を売却するのかどうか」等、性質の違う問題が同時に議題に上がります。
ここで大事なのは、「今、何について話をしているのか」、「どの部分で意見が合わないのか」をきちんと理解することです。
当たり前のように見えるかも知れませんが、実際の調停では、これらの事情が整理されず、「お互いがこだわりのある部分を話してしまい収拾がつかない」といったことは頻繁に起こっています。
② 疑問に思ったら、「なぜ?」と聞き、理由をしっかり理解する
私が、調停で最も大事にしている事項です。
調停では、調停委員を介し相手の主張・言い分を聞くことになります。
調停委員から伝えられる相手の言い分が結論部分のみであり、なぜそのようなことを言っているのかについては伝えられないといったことも少なくありません。
しかし、理由によって聞こえ方が全く違ったものになることがあります。
【悪い例】



ご主人は、財産分与として500万円を支払うと言っています。



少な過ぎます!



ご主人が言っていることを伝えているだけですので・・・



納得できません!!
【良い例】



ご主人は、財産分与として500万円を支払うと言っています。



なぜ500万円なんですか?



ご主人のお話では、共有財産の不動産を売りに出しているものの、近隣に新築建売が建ってしまって、想定していた金額からかなり落とさないと売れないそうです。不動産会社が言っている金額で売ってしまうと、財産分与として支払う金額はないのですが、会社から借りて500万円を支払うと言っています。



分かりました。不動産の情報は知らなかったので、私も調べてみます。
③ 事実と気持ちを分けて説明する
調停では、「実際に何があったのか」、「どのような財産があるのか」などと言った事実と、その事実に対し、どのように思ったのかという気持ちの両方が確認されます。
気持ちが全く出てこない調停というのも良くありませんが、気持ちが出過ぎてしまうと、事実と気持ちが混ざって話に出てきてしまい、事実を理解することが難しくなってしまいます。
意識的に、「事実」と「気持ち」を分けて話をしましょう。
④ 自分の主張が相手にとっても好ましいことを説明する
上で見たように、調停は当事者間の合意を目指すものであり、「合意=双方の意思の合致」がなければ調停は何も得るものなく終わってしまいますので、自分だけでなく相手も納得する状態にする必要があります。
そこで、自分の主張をする際、自分だけでなく相手にとってもメリットがあることを説明しましょう。
⑤ まとまらなければ「仕方ない」と割り切る
調停を成立させたい、早く終わらせたいという思いが強過ぎるあまり、意に反する結論を招くことになってしまうことは既に見ました。
離婚調停であれば裁判を、婚姻費用や面会交流の調停であれば審判となった場合の見通しを考えた上で、「裁判や審判をした方が良い」と思えれば、無理に調停をまとめる必要はないという割り切った考え方ができると不合理な結論で納得しなくて済みます。
よくある質問
調停での弁護士の役割
調停では、必ずしも弁護士をつけず、自分のみで対応する方もいます。
「調停は自分でできるけど、裁判は弁護士じゃないと無理」という話を聞くことも。
では、調停で弁護士ができること、できないことについて見ていきましょう。
① 解決までの道筋を示してくれる
上で見たように、調停で「勝つ」ためには、裁判や審判の見通しやコストを考慮して方針を決定すべきです。
例えば、妻が離婚を求め、夫が離婚を拒否しているケースを考えてみましょう。
夫としては、
- 離婚に応じない場合に婚姻費用を分担しなければならないが離婚に応じればこれがなくなる
- 離婚の裁判へ移った場合、離婚が認められてしまう可能性がそこそこある
- このまま裁判で離婚が認められた場合、法律に従った財産分与を支払わなければならない
- 離婚に応じることで、経済的な譲歩を引き出し、裁判より有利な結論を導けないか
といったことを考えて条件を設定していくことになります。
このような条件設定ですが、実際に離婚裁判を多数経験した弁護士でなければ的確な見通しを立てることはできません。
見通しを基に、その時点で最も有利な選択肢を取ることができるという点は、弁護士が関与した場合の最大の利点といえます。
② 言いにくいことを本人に代わって言う
調停委員の顔色を窺うことなく、自分が思ったことは言うべきであると上で書きましたが、実際の調停で自分の考えや意見をスラスラと言える人は少数です。
特に金銭の話については、権利を主張することに抵抗を覚える方も多いと思います。
このように、「言わなければならないけど言いにくいこと」をはっきりと本人に代わって主張するというのも弁護士の重要な役割です。
③ 他のケースとの比較が可能
調停や裁判では、想定していなかったイレギュラーなことが起きます。
予想外に理不尽なことが起きたとき、「よくあることなのか?レアケースなのか?」、「他の人はどのように解決してきたのか」と他の方との比較をしたくなるものです。
他のケースと比較して、今起きていることを分析し、解決方法を考えることができるのは弁護士だけであり、弁護士が入ることの大きなメリットであるといえます。
× 過度に有利な結論は期待できない
逆に弁護士ができないことですが、「婚姻費用を相場の10倍にする」や「これまで監護実績が全くない側を親権者とする」など、一般的に見られる結論と大きくかけ離れた条件を獲得したり、絶対的に不利な条件をなかったことにすることです。
このようなことが全く起きないとはいえませんが、弁護士の能力や活動だけでなく、運の要素も大きくかかわってくることになります。
納得のいく解決を導くためにすべきこと
ここまで調停でどのように行動すべきか解説してきました。
あくまで本ページの記載は、正解を記載したものではなく、ヒントのようなものですので、ご自身の状況に合わせて具体的に考えていかなければなりません。
本ページを読んで、弁護士の関与が必要と感じられた方は、遠慮なくフォレスト法律事務所までご連絡ください。
本ページを書いた弁護士である森が直接あなたのお話をお聞きします。



