「不倫はしたけど既婚者とは知らなかった」|慰謝料請求ができる場合/拒否できる場合を解説

驚く男性

交際相手が独身だと思っていたのに、実は既婚者だった・・・。

不貞行為を行うにあたって、自分が既婚者であることを隠して交際をするケースは少なくありません。

独身であると信じて肉体関係を持った場合、不貞行為の慰謝料を支払う義務を負うのでしょうか。

結論としては、「相手が既婚者であることを知らず、そのように信じたことに不注意がなかった」といえる場合には慰謝料の支払義務はありません。

もっとも、どのような事情があれば既婚者と知っていたとされるのか、不注意があったとされるのはどのような場合かは分かりにくいものです。

そこで、このページでは、実際の裁判例をもとに、どのようにして「既婚者と知っていた」、「不注意があった」かが判断されるかを見ていきます。

独身と信じて肉体関係に及んでしまった方も、不貞行為をされてしまい慰謝料請求をする方も、ご自身の状況と比較してみてください。

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目次

不倫(不貞行為)の慰謝料請求が認められる条件

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不貞行為の慰謝料請求が認められるためには、いくつかの条件が必要となります。

1つでも欠ければ、慰謝料の請求は認められません。

慰謝料請求が認められる条件

慰謝料請求が認められるためには、以下の条件が必要となります。

1つでも欠ければ、慰謝料請求は認められません。

慰謝料請求の要素

① 肉体関係、同棲、その他、婚姻共同生活の平和の維持を困難とする行為をしたこと

② ①の当時、肉体関係等の相手が既婚者であったこと

③ ①によって、婚姻共同生活の平和の維持が困難となったこと

④ ③についての故意又は過失があること

⑤ 精神的損害が発生したこと

「既婚者だと知らなかった」という事情の意味

上記条件のうち、④の「故意」とは「交際相手が既婚者であることを知っていた」ことを、「過失」とは、「既婚者であることを知らなかったことに不注意があったこと」を意味します。

よって、故意又は過失がない場合=「交際相手が既婚者であるとは知らなかったし、知らなかったことに不注意がなかった」場合には慰謝料請求は認められないことになります。

故意・過失はどのように判断されるか

判断方法

故意、過失があったかどうかはどのように判断されるのでしょうか。

具体例を見る前に、典型的な判断方法を見てみましょう。

客観的な証拠がある場合

交際相手が既婚者であることを示す客観的な証拠がある場合は、その証拠のみで判断が可能となります。

例えば、既婚者であることを前提としたやりとり(「夫はまだ帰ってこないの?」、「妻にバレないように気を付けよう」など)が見つかった場合、故意があると判断されます。

客観的な証拠がない場合

既婚者であることを示すような証拠が存在しない場合、以下のような具体的な事情をもとに、故意・過失の有無が判断されます。

① 交際相手と出会ったきっかけ

交際相手と同じ職場で出会った場合、職場内では通常、未婚・既婚の別を知りやすいと言えますので、既婚者であったことを知っていた(故意があった)と推認される事情となります。

しかし、お見合いパーティー、婚活サイトなどで知り合った場合、このような場は独身であることを前提としていることから、故意・過失は認められにくくなります。

② 交際期間・回数

交際期間が長い場合、それだけ既婚者であることを知る機会も多く、知らないまでも疑いを持つ機会も増えるといえます。

逆に、関係を持った回数が1度だけであれば、知る機会も疑いを持つ機会も少ないです。

③ 年齢

交際相手の年齢が高くなれば、確率的に既婚である割合が高くなります。

相手が既婚者であることを知らなかったとしても、相手の年齢からすると既婚者かどうかが気になるはずですので、既婚者と知らなかったことに不注意があったとも考えられます。

もっとも、現代では未婚か既婚かは年齢によって判断できませんし、そもそも相手の年齢を知らないようなケースでは見た目しか判断要素となりません。

よって、故意・過失の判断要素としては決定的なものではなく、一つの事情となり得るにすぎません。

④ その他の事情

その他、独身であるとすれば不自然な行動があった場合は、既婚者と気付く機会があった(=知らなかったのは不注意であった)と判断される事情となります。

例えば、長期間交際していたのに一度も宿泊をしたことがなかった、自分の家には来るが、相手の家に行くことは頑なに拒否されていた、SNSのアイコンに異性や子供の写真が設定されていたような場合などです。

裁判例 どのような場合に故意・過失が否定されるのかを確認

それでは、具体的な事情について裁判所がどのように判断をしたのか、実際の裁判例をみていきます。

故意・過失が認められなかった裁判例

① お見合いパーティーで知り合った相手が、氏名、年齢を偽り、独身だと装っていたケース(東京地裁平成23年4月26日判決)

女性が、お見合いパーティーで男性と知り合い、交際に発展しました。

男性は、氏名、年齢、住所、学歴を偽り、約6年間もの間交際を継続し、女性は男性との子を妊娠・出産。

男性の配偶者が不貞行為の存在を知り、女性に対し慰謝料を請求した裁判で、裁判所は以下のとおり判断しました。

被告(※女性)は,通常は独身者が参加すると考えられているお見合いパーティーでA(※男性)と知り合ったこと,Aは,被告との交際期間中,被告に対し,氏名,年齢,住所及び学歴等を偽り,一貫して独身であるかのように装っていたこと等に照らすと,通常人の認識力,判断力をもってしてはAが婚姻していることを認識することは困難であったというべきであり,・・・Aが独身であると信じて交際を続けていたことについて,過失があると評価することはできない。

東京地裁平成23年4月26日判決

この裁判例の特徴は、通常独身者のみが参加するお見合いパーティーで知り合った点です。更に、男性は、氏名や年齢(実年齢は44歳だが30歳と偽っていました)、住所、学歴という一切の個人情報を偽っていたという事情も存在しました。

② 交際相手とその配偶者が開いたパーティーに参加したことをきっかけに、交際が開始したケース(東京地裁平成28年2月17日判決)

男性Aとその配偶者Xが、知人を集めてパーティーを開き、その二次会に女性Yが参加しました。

二次会には20名程度が参加しており、AとYはその場で初めて顔を合わせました。

二次会が終了した後、A、X、Y他3名でラーメン屋に行き、飲食をした後、帰宅しました。

AとYは、パーティーの翌月から連絡を取り合うようになり、間もなく肉体関係を持つようになったという事案です。

裁判所は、Yの過失について以下のとおり判断しました。

被告(Y)は,飲み会で知り合ったAから誘われる形で同人と交際するようになったのであって,もともとAに配偶者がいるのか否か気になりにくい立場にあったと考えられることに加え,交際中には,Aと共に大勢の男女が集まる飲み会に度々参加していたほか,Aがかつてホストであったことも知っていたことから,Aの生活が落ち着いたものではないと認識していたと認められ,Aに配偶者がいることに思いが至らなかったとしてもやむを得なかったと考えられることなどに照らすと,被告において,結果的にAの配偶者の権利を侵害するに至った点につき非難されるべき落ち度(過失)があったとまでは認め難いというべきである

東京地裁平成28年2月17日判決

この裁判では、二次会やラーメン屋で撮影した写真が証拠として提出されていましたが、写真に映ったAは結婚指輪をしていなかったこと、参加者は酔った状態で騒々しい様子であり会話によって既婚者であると認識し得るような状況であったかどうかも疑わしいと考えられたことも故意・過失を否定する要素となりました。

このほか、フォレスト法律事務所の取扱事例の中で、故意・過失がなかったと認められたケースについて、以下のページで詳細にご紹介しています。

故意は否定されたものの、過失が認められた裁判例

・出会い系サイトを通じて知り合った男性が既婚者であることを隠して交際したケース(東京地裁平成19年4月24日)

出会い系サイトで知り合った男性が、自分は「バツイチ」だと説明したことを信じ、男性と不貞に及んだ女性が慰謝料を請求された事案です。

裁判所は、証拠上、女性に故意があったとは認められないとしつつも、男性の説明をそのまま信じてしまったことに過失があると判断されました。

実際の判断は難しいことから弁護士への相談が必要

故意・過失の判断は、これまで見てきたように様々な事情を総合的に考慮して判断されます。

一般的に「故意・過失がない」との主張が通りにくいことは事実ですが、実際には主張が通っているケースも存在します。

ご自分のケースではどうなるかの判断については弁護士に相談されることをお勧めします。

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この記事を書いた人

フォレスト法律事務所代表弁護士。
弁護士資格の他、ファイナンシャルプランナー、証券外務員一種、宅地建物取引士の資格を保有しており、不動産を含む経済的な問題を得意としています。
離婚・男女問題について、豊富な経験をもとに分かりやすく解説します。

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