近年、大物大リーガーが婚前契約を結んでいたことが話題となりました。
婚前契約自体は昔から存在しますが、権利意識の高まりや事業承継の必要性、男女関係の多様性から、経営者や資産家の間でも婚前契約の必要性が意識されるようになっています。
そこで、本ページでは、会社経営者、個人事業主・資産家の方に向けて、婚前契約の重要性、作成する場合の注意点や流れについて解説していきます。
この後解説しますが、婚前契約は将来の離婚リスクを軽減するという消極的な面だけでなく、事業活動を活性化させる側面も有しています。
婚姻を考えているものの、リスクを考慮すると踏み出せずにいる経営者の方にとって、本ページが参考になれば幸いです。
資産家・会社経営者が知っておくべき婚前契約書の基礎知識
「婚前契約」という用語自体は聞き覚えがあるものの、誰が何の目的で作成するのかといった具体的なことはあまり知られていません。
まず、これらの根本的な部分から見ていきましょう。
① 婚前契約とは?
婚前契約とは、文字通り結婚前に、婚姻しようとする者の間で交わす契約をいいます。
「売買契約」や「賃貸借契約」のように、法律に規定された契約ではないため、法律の一般原則に反しない限りは当事者間で自由に内容を決定できる点が特徴的です。
② 夫婦財産契約との違いは?
民法には「夫婦財産契約」という名称の契約が規定されています。
インターネット上では「夫婦財産契=婚前契約」のような記載も見受けられますが、厳密に言えば正確ではありません。
まず、夫婦財産契約を規定した法律を見てみます。
(夫婦の財産関係)
第755条 夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。
民法(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089)
この「次款」に定められているのは、「婚姻費用の分担(760条)」、「日常家事に関する債務の連帯責任(761条)」、「夫婦間における財産の帰属(762条)」です。
これらの事項について、法律に規定された内容を修正するものが夫婦財産契約です。
逆に、上記事項に関しない修正、例えば、「損害賠償額の予定」や「相続」に関する事項などは夫婦財産契約の内容とはなりません。
これに対し、婚前契約には、内容に制限はありませんので、損害賠償額の予定や相続に関する取り決めをしておくことも可能です。
このように、夫婦財産契約は、婚前契約の一部分と定義づけることができます。

③ どのような人が対象か?
以前は一部の資産家、高所得者のみが作成していたものですが、昨今の権利意識の高まり、価値観や家族観の多様化から、資産の多寡にかかわらず、若年層でも作成する人が出てきています。
④ 何のために作成するの?
婚前契約書は、婚姻後の約束事を定めるものですので、その目的も人によって異なりますがすが、一般的には
- 互いの財産、権利についてあらかじめ合意しておくことで、婚姻後の不安を軽減する
- 婚姻前に所有する財産の権利関係について明確にする
- 将来の不法行為(主に不貞行為)に対して、罰則を定めておくことで、不貞そのものを抑止する
- 万一離婚した場合のことを決めておくことで、将来の紛争が激化しないようにする
といった目的で作成されています。
経営者が積極的に婚前契約書を作成する理由
婚前契約書は、会社経営者や資産家にとって以下の点で有益です。
⑴ 安心して事業に専念できる
婚姻を「夫婦間で結ぶ一生涯の契約」と見た場合、ポジティブな面だけでなく、様々なリスクが生じ得るものといえます。
しかし、このリスクを契約書を作成することによって事前にコントロールできれば、余計な不安を解消でき、事業に専念することが可能となります。
⑵ 万一離婚した場合のダメージを軽減できる
万一離婚した場合、財産分与の問題が生じます。
婚姻後に築いた財産は、夫婦で等しく分け合うことになりますが、会社経営者にとって大きな問題となるのが「自社株の評価」です。
婚姻前から会社経営をしており、代表者が株式を保有している場合、婚姻時の自社株評価額から離婚する時点までに増加した株式価値が財産分与の対象となります。
この増加額が大きな金額となってしまった場合、株式を第三者に売却することはしにくく、まして株の現物を離婚する相手に渡すことも憚られるため、どこかから現金を調達して相手に渡さなければなりません。
このように経営者にとって、離婚した場合のダメージは非常に大きなものとなりかねないため、万一の事態に備え、事前に契約をしておくことは非常に有用といえます。
⑶ 次世代への事業譲渡や相続関係を決めることができる
近年、熟年離婚した方が再婚することも珍しくなくなりました。
若年層の結婚と異なり、お互いに既に財産を保有していたり、連れ子がいたりなど、状況もバリエーションに富んでいます。
法律は、必ずしも個別のニーズに合致しているとはいえないため、例えば、
- 現在経営している事業を将来的に特定の子に移したい
- 互いの特有財産は、それぞれの連れ子に相続させ、婚姻後の財産は夫婦の共有としたい
といった要望がある場合は婚前契約で規定することが可能です。
婚前契約書の法的効力(拘束力)
⑴ 法的効力(拘束力)はあるの?
せっかく作成した婚前契約書も法的な効力がなければ意味がありません。
婚前契約書は、夫婦となろうとする男女が自由な意思で作成したものであれば、原則として法的な効力が認められます。
しかし、以下のような規定については、法的な効力が認められない可能性があります。
① 暴利な内容を含むもの
「不貞行為をした場合に1億円の慰謝料を支払う」のように、相場と著しくかけ離れたような規定は無効となる可能性があります。
どの程度の金額が有効となるかは当事者の資産状況、社会的地位、婚前契約書作成に至った経緯等の個別事情によって異なるため、一概に金額を明示することはできないため、作成に当たっては弁護士に相談されることをお勧めします。
② 将来出生する子に関する規定
「子が出生した場合、親権者は父とする」のように、あらかじめ子の親権者をどちらかに指定する内容の規定は無効となる可能性があります。
子の親権者をどちらにするかは、離婚時の状況において子の福祉の観点から好ましい方に決まるのであって、具体的な状況を離れて決められるものではないからです。
また、「離婚した場合、父子との面会交流を認めない」のような規定も無効となるでしょう。面会交流は子の権利であって、事前に子の権利を奪うことはできないからです。
③ 違法な行為を助長する規定
「脱税に協力しなければ、100万円を支払う」のように、違法な行為を助長する規定は無効となります。
⑵ 法的効力に関するQ&A
婚前契約書の作成方法
婚前契約書は一般的に以下の流れで作成します。
まず、パートナーと話し合うことが第一です。
契約書で決めるべき事項について、大まかな方針だけでも二人で話し合って決めましょう。
大まかな方針が決まったら一度弁護士に相談しましょう。
ここで法的効力やリスクのチェック、検討漏れの事項の有無についてアドバイスを受けます。
検討事項をクリアできた段階で弁護士が具体的な文案を作成します。
できあがった文案を2人でチェックします。
それぞれ疑問に思う点、不安に思う点は異なるでしょうから、全ての疑問点が解消されるよう弁護士も努力します。
完成した契約書に2人で署名押印します。
公正証書であれば、2人で公証役場に赴く必要があります。
婚前契約書の作成がもっと広まってほしい
ここまで婚前契約書の作成が経営者、資産家に必要なことを解説してきました。
以前と比べれば婚前契約書を作成することに抵抗感がなくなってきましたが、いまだ作成をしている方は少数です。
経営者の中には、婚姻後の財産関係が不安で結婚に踏み出せない方もおり、そのような方からご相談を受けることもあります。
早く婚前契約書の作成が常識的な世の中となり、婚姻への不安が解消されるようになるといいですね。






