(2021年12月18日 更新)
労働審判では、出席した当事者の発言が非常に重要です。代理人弁護士がいる場合であっても、当事者が発言することが基本となります。代理人弁護士が発言すると、発言を制して、当事者に話をさせるよう指示されることも少なくありません。
このように、労働審判では、出席した当事者の役割は重要なものとなります。
このページでは、労働審判に初めて出席される方からよくいただくご質問、弁護士の立場から、実際の労働審判で見た事例を参考に気を付けた方が良いと思われるポイントをまとめました。
誰でも経験のない初めての労働審判に出席することは緊張します。平常時であれば、行わないような行動も、緊張のあまり出てしまうことは少なくありません。このサイトを見て、労働審判に備えてください。
1 事前準備に必要なこと
闇雲に事前準備をしても、時間だけが過ぎてしまいます。以下の観点から準備をすることが有用です。
①「基本的な事情の確認」
雇用契約の内容、具体的な労働内容、1日の業務の流れ等、事件の基本的な事実関係については、端的に答えられるようにしておくべきです。
②「争点に対する意見の整理」
双方の主張が食い違っている点を争点といいます。双方の主張が合致している点については、そのとおりの事実があったものと扱われますので、主に審理される点は争点のある部分となります。
申立書、答弁書の記載を見比べ、争点が何であるかを把握する必要があります。その上で、争点について、自分の主張を端的に説明できるように準備しましょう。
③「和解条件を検討する」
1回目の期日で、和解条件を聞かれることが多いです。審判の場で和解条件を検討しようとしても、すぐに妥当な回答をすることはできません。
大まかなものでも構いませんので、事前に検討しておき、当日の審理内容を踏まえて条件を確定できるように準備しておきましょう。
2 当日の服装について
「スーツを着た方が良いですか?」というご質問をいただきます。普段、仕事でスーツを着ることがない方としては、非常に気になる点です。
服装により、発言の信用性が左右されたり判断されたりするものではありませんが、労働審判委員会の審判員、審判官はスーツを着用していますので、スーツを着用している方が無難ではあります。
もっとも、スーツを着用することがデメリットになってしまう場合は、この限りではありません。実際にあったケースでは、20年以上スーツを着ておらず、大昔に作ったスーツを着てきた方がいらっしゃいました。その方に感想をお聞きしたところ、普段気慣れていないスーツを着たことで緊張感が増してしまったとのことでした。
このように、普段着慣れていない服装によって、緊張してしまい、話すべきことを話せないということになってしまえば本末転倒です。このような心配のある方は、普段着慣れた服装(ただし、過度にラフな格好は控えるべきでしょう。)で臨んだ方がよろしいかと思います。
不安な方は、事前に相談いただき、弁護士に服装をチェックしてもらうことをお勧めします。
3 当日の対応で大切なこと
労働審判では、労働審判官、労働審判員から質問され、これに回答することになります。回答する内容が正しくても、これが相手に伝わらなければ無意味ですので、以下の点に注意するといいでしょう。
①「端的に 短く」を心がける
労働審判での回答を見ていると、みなさん、「伝えたい」、「分かってもらいたい」という思いが強く出て、たくさんの情報を一度に伝えようとしがちです。
しかし、労働審判官、労働審判員は、紛争となっている業界に精通しているとは限りませんし、その業界について専門の知識があったとしても、会社ごとに異なる事情については把握していません。
あくまで、一番事情を把握しているのは、当事者であるあなたです。
そうすると、たくさんの事情を一度に話しても、伝わるのは話した内容の半分程です。
質問に対応する回答は、極力「端的に 短く」を心がけるようにしてください。
②「質問の内容を理解して回答する」
労働審判官、労働審判員の質問が、一義的でなく、何を質問したいのか分からないと思われることがあります。当事者からすると、「すぐに答えなければならない」という心理が働き、質問の趣旨を推測して回答してしまうという場面をよく目にします。
質問の趣旨と異なる回答は、無意味であり、再度質問がされてしまい、自分の回答が間違っていたと焦ってしまい、さらに趣旨と外れた回答をしてしまうことを招きます。
質問の意味や趣旨が分からなければ、「質問をもう一度お願いします。」、「質問の趣旨は●●でしょうか?」のように質問することは何ら問題ありません。
質問者が「本当に聞きたいことは何か」を考えてから回答するようにしてください。
③「感情を出し過ぎない」
労働審判官、労働審判員の質問の中には、時には的外れなもの、相手方に寄っていると思われるものもあります。
そのような質問がされたとしても、労働審判官、労働審判員に悪意はないのですが、当事者としては、自分を否定されたように感じ、感情的に反論されるケースが見られます。
もちろん、反論すべきことは反論すべきですし、客観的に見て許せない発言に対しては抗議する必要はありますが、感情的に反論することで何かメリットが生じることはありません。落ち着いて、回答するよう心がけましょう。
④「譲れない条件を決めておく」
1回目の期日では、希望する和解条件が確認されます。
和解が成立する場合に絶対外せない条件、希望を伝えられるよう準備しておく必要があります。
4 労働審判で気を付けるポイントのまとめ
労働審判は、事案やその場の状況により、解決までにかかる道筋が異なりますが、上に記載した事項を準備しておくことで、柔軟に対応することができるはずです。
初めての労働審判に当たって不安に思う方の助けになれば幸いです。
なお、労働審判の流れについては、「労働審判の流れを解説」を参照ください。