タイムカードを過少打刻していたものの、実労働時間に見合った残業代を獲得できたケース

居酒屋店員

・30代男性

・大手飲食チェーン店の店長

・裁判により約400万円の残業代を獲得

目次

ご相談~ご依頼

Aさんは、全国展開する大手飲食チェーン店で店長として勤務されていました。

店長としてほぼ毎日、開店作業から閉店作業までを行っていました。

しかし、タイムカード上、会社が定めた勤務時間をオーバーしてしまうと罰金や降格のペナルティが課されるという不合理なルールがあり、これに逆らうことはできず。

Aさん含む大半の店長は、タイムカードで退勤打刻をした後に仕事をしたり、出勤してもタイムカードを押さないで働いていました。

会社は、Aさんのような働き方を把握していながら見て見ぬフリ。

Aさんは体調を崩して退職しましたが、会社のこのようなやり方に納得がいかず、弁護士に依頼し、未払いの残業代を請求することにしました。

弁護士の活動

① 会社が定めた上限時間規定の確認

会社の規定には、労働者の健康に配慮する目的で、1か月労働時間に上限が設けられていました。

ここだけ見れば「良い会社」に見えるのではないでしょうか?

しかし、開店・閉店作業には店長を含む社員にしかできない業務が複数存在しており、店長がこれらの業務をしなければ店舗運営が不可能でした。

そして、毎日開店から閉店まで働けば会社が設定する上限時間を簡単に超えてしまいます。

このように、店長職をしている限り上限設定時間内で労働することは不可能であり、健康への配慮は見せかけのものでした。

② 不自然なタイムカードの打刻

会社から開示されたタイムカードを確認してみると、案の定、上限時間に収まった時間が記録されていました。

しかし、同時に開示された他の社員やアルバイトのシフト表と見比べてみたところ、閉店時にアルバイトしか働いていない日が複数見つかりました。

上記のとおり、閉店作業には店長か社員しか行えないものが存在するため、これでは閉店作業が行えません。

このような日はAさんがタイムカードを打刻した後に働いていたのです。

中には、店舗が営業しているにもかかわらず、記録上は店舗に誰も出勤していない日も存在しました。

③ 会社との交渉

資料を精査した結果、タイムカードに記録された時間が実際よりも短いものであることが判明しました。

弁護士は、会社に対し、上記の理由からタイムカードの印字通りに計算をすべきでないと主張しました。

しかし、会社は「タイムカードの記録が正しい」と譲らず。

会社側が全く譲歩する姿勢をみせなかったため、Aさんは裁判を申し立てることにしました。

④ 裁判

裁判では、タイムカードの記録に従えば店舗運営ができないことを丁寧に論じました。

結果、会社が約400万円の残業代を支払う内容の和解が成立しました。

本件のポイント

① タイムカードの過少打刻

タイムカードを実際の退勤よりも前に打刻させるというケースが散見されます。

本件は、会社が打刻を直接指示したものではありませんが、上限時間の設定により罰金や降格という重い処分を課しているだけ悪質なケースでした(上限時間以外にも様々なノルマが課されていました。)

タイムカードには明確な数字が記録されているため、この数字が誤りであることを証明することは容易ではありません。

本件は、他の従業員の勤怠記録を組み合わせることで過少打刻をしていることを明らかにすることができました。

② 「大きな会社=正しい」という常識を捨てる

本件は全国でチェーン展開をしている大きな会社を相手にするものでした。

一般的に、「大きな会社であればそこまでおかしなことはしないはず」という先入観を持ってしまいますが、実際は会社規模は関係ありません。

当初、Aさんも「まさか●●(会社)が違法なことはしていないと思う」と思い込んでいたとのことでした。

このような先入観を捨て、「おかしいものはおかしい」という考えを持つことが大事です。

弁護士 森 圭
フォレスト法律事務所代表弁護士。これまで累計800件以上の労働問題に関するご相談を受けてきました。管理職、運送業、飲食店など、幅広い業種、業態の取り扱いがあります。残業代請求に関する情報を、豊富な経験をもとに、分かりやすく解説します。
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