残業代請求の方法(ご自身で請求する場合/弁護士に依頼をした場合)

残業代の請求を思い立った際、まず検討すべき問題は「自分だけで請求をするか」、「弁護士に依頼して進めるか」ということです。

このページでは、残業代の支払いを請求する方法について、ご自身で請求する場合と弁護士に依頼をした場合に分けて解説をしていきます。

弁護士が書いた解説ですので「弁護士に依頼すべき」という結論になると思われるかも知れませんが、全てのケースで弁護士に依頼をすることが望ましいとはいえません。

それぞれの方法のメリット・デメリットを理解し、どのように残業代を請求していくか決めましょう。

目次

いつまで請求できるのか?

未払い残業代の請求権は、本来の支給日から3年を経過すると時効にかかり、消滅してしまいます。

なお、2020年4月1日まで残業代の時効は2年とされていましたが、この日以降に発生する残業代については3年前までさかのぼって請求することが可能です。

このさかのぼれる期間は、会社を退職した後であっても、在職中であっても変わりません。

残業代を請求できる権利は、1か月単位で給与の支払日ごとに時効で消えていきます。

同じ企業で続けて勤務していても、3年以上前の残業代は月ごとに時効にかかってしまうので、請求しなければ支払日ごとにどんどん権利が消えていってしまうのです。

支払われていない残業代を請求しようと思ったら、会社側に内容証明郵便を出して時効の完成を止めておく必要があります。

請求の手順(ご自身で請求をする場合)

いざ請求しようとなった場合、具体的にどのような手順で請求をしていくのか見ていきましょう。

会社との交渉

まず、使用者である会社に対し、残業代を支払ってもらうよう話し合いを行います。

3年以上在職している方であれば、過去の残業代が時効で消えてしまうため、時効の進行を止めるため、書面で残業代の支払いを求めましょう。

なお、書面を送付する方法について、法的な決まりはありませんが、後々、会社が「書面を受け取っていない」と主張された場合に備え、「配達証明付き内容証明郵便」で発送することが好ましいです。

また、手元にタイムカードや給与明細など、残業代を計算する資料がない場合、企業側に労働時間等を管理していた資料を開示してもらう必要があります。

資料を基に残業代を計算し、会社に支払いを求めることになります。

残業代の計算方法については以下のページをご覧ください。

支払いを求めたものの、会社が支払いを拒絶するなどして、話合いで解決ができない場合、労働審判又は裁判により請求することを考えます。

労働審判

「労働審判」は、話合いと裁判の中間のような非公開の手続で、調停(お互いの合意)や裁判所からの審判によって残業代の支払いを求めるものです。

通常の裁判と違い、労働審判は「3回以内」という制約がありますので、早期に結果が出ます。

もっとも、事実関係や証拠が複雑な場合、3回以内の期日で解決をしなければいけない関係上、裁判と比べると大雑把な解決となってしまうことがあります。また、労働審判に対しては、双方が異議を述べることができ、異議を述べた場合には通常の裁判へ移行することになります。

よって、異議が出されることが予想されるケースでは、労働審判ではなく裁判を選んだ方が、結果的に早期に解決できることもあります。

裁判

裁判所に訴えを起こし、未払い残業代を請求する方法です。

労働審判と違い、期日の回数に制限はありません。

裁判では、労働基準法上の時間外労働に対する割増賃金の他に、労基法違反の制裁としての意味合いを持つ付加金を併せて請求できます。

裁判は、交渉や労働審判と比べると、解決までに時間がかかってしまうことがあるというデメリットがあります。

なお、労働審判と裁判のメリット・デメリットについては、以下のページをご覧ください。

 ご自身で請求する場合にぶつかる問題

①「会社とのやり取りで生じるストレス

未払残業代の請求は、本来企業が支払うべき義務があるものの支払いを求めるものであり、正当な権利を行使するものです。

しかし、元々勤務していた会社と連絡を取り、対応していくことには相当なストレスを感じるはずです。現在、勤務している会社に支払いを請求する場合は更に強いストレスが伴います。

簡単なやり取りで解決に至るとは限らないため、残念ながらこのようなストレスを回避することはできないでしょう。

②「法律に従った計算が難しい」

残業代の計算方法は決まっていますが、「どの賃金を残業代算定の基礎とするのか」、「タイムカードの打刻のうち、どの部分までを労働時間とするのか」など、計算をするにしても法的な判断は必要となります。

残業代を請求された会社からのご相談を受けた際、従業員が送付してきた計算書面の内容を見ると、計算が法律に従っていないケースは少なくありません。

中には従業員に代理人が就いている場合にもこのようなケースが散見されます。

会社としては、労働者の請求に理由がないと分かれば、積極的に支払いに応じようとは考えません。

むしろ、不当な請求をしてくることに態度を硬化させてしまうこともあります。

このように、残業代の請求をするには、法律に従った計算をすることが必要となりますが、弁護士に依頼をせずに行うことは非常に難しいと思われます。

③「会社の言い分に対する反論が難しい」

残業代を請求した後、会社から様々な反論が出てきます。

例えば、「●●手当は固定残業代として支払ったものである」、「課長職は管理職で、管理監督者に該当するので残業代は発生しない」のような反論は頻繁に目にしますが、これに的確な反論をすることは必ずしも簡単ではありません。

インターネット上の情報で的確に反論をすることは難しく、専門書や判例を読み込む必要がありますが、必要となる時間を考えると、現実的ではないように思われます。

④「裁判所に提出する書面の作成方法が分からない」

会社との交渉が決裂した場合、労働審判や裁判を申し立てることになります。いずれの手続であっても、裁判所に書面を提出する必要があります。

裁判所は中立な機関ですので、書面に記載されていない事情を酌みとってはくれません。

また、判断をする裁判官も人間ですので、分かりにくい書面から複雑な事情を読み取り、有利な判断をしてくれることは期待できません。

書面を作成するスキルは一朝一夕で身につくものではありませんので、弁護士に依頼をせずに行うことは極めて難しいと思われます。

弁護士に依頼をした場合の流れ

どのような段階で相談をするべきか

在職中の方は、退職時に会社に未払いの残業代などを請求するための証拠収集を行う時期です。

タイムカードや出勤簿など出退勤の日時が記された勤怠記録や、就業規則・労使協定など、退職後に会社に請求を行うための証拠を入手された上で、弁護士に相談されることをお勧めします。この時点で、不足する資料をご案内することができます。

また、退職を決意(退職日・解雇日が決定)された段階でご相談されることがタイミングとしては最適と考えます。

この時期にご相談をいただければ、退職前の段階で適切なアドバイスができますし、会社に対しても速やかに請求をすることが可能となります。

ご相談されるタイミングは早いに越したことはありませんが、退職後であっても、弁護士が必要な証拠書類の開示を含めて会社と交渉することでご満足いただく結果となったケースも多数あります。

なお、退職後の方は、時効にもご注意ください。未払残業代は3年で時効にかかりますので、離職や転職をされたらすぐに弁護士にご相談ください。

弁護士に依頼した後の流れ

弁護士に残業代請求を依頼すると以下の流れで進みます。

① 請求金額の計算

ご持参いただいた資料をもとに、請求金額を計算します。

タイムカードや日報等の資料によって労働した時間を整理する他、就業規則や賃金規程等の資料を確認し、残業代の基礎となる賃金の割り振りをします。

資料をあまりお持ちでない方は、どのように主張をするかをこの段階で検討することになります。

② 交渉

計算した結果をもとに、会社に対し、残業代を支払うよう請求します。
残業代は、3年の時効で消滅してしまうので、この時効を止めるため、内容証明郵便で請求をすることが通常です。

交渉にかかる時間はケースバイケースですが、2~3か月~6か月程度が多いです。

交渉内で合意に至らない場合は、労働審判や裁判の申立てを検討することになります。

労働審判、裁判にはそれぞれメリット・デメリットがあるため、どちらの手続を選択するかについて、この段階で詳細に打ち合わせをした上、決定することになります。

 ③ 労働審判

裁判所の手続なので手間がかかるのではないかと不安になる方もいらっしゃいます。しかし、実際には弁護士が労働審判申立書の作成や必要な証拠の整理・準備を行うため、ご本人が自分で書面作成等の作業をする必要はありません。 

もっとも、労働審判の期日に出席するため1~3回は裁判所に行く必要があります。

労働審判にかかる時間は、通常は2か月半程度、長くて4か月程度です。 

④ 裁判 

労働審判と同様に、弁護士が訴状・準備書面の作成や必要な証拠の整理・準備を行うため、ご本人が自分で書面作成等の作業をすることはほとんどありません。 

なお、仮に裁判になったとしても、ご本人が裁判所に行くのは1回程度であり、裁判所に1度も行くことなく解決できる事例も少なくありません。

裁判にかかる期間は、半年~1年程度です。裁判にかかる期間は、双方がどこまで主張に時間をかけるかによるため、事前に予測しにくい面があります。

裁判の最後に裁判所が出す判決では、残業代に加えて、最大で残業代と同額の付加金の支払いが命じられることがあります。

弁護士へのご相談をお勧めする理由

近年、インターネット上の情報が充実し、誰でも簡単に情報収集をすることが可能となりました。 

フォレスト法律事務所にご相談に来られる方の中にも、様々なサイトで情報を集めてこられる方も増えてきました。このように、誰でも情報にアクセスできる状況は非常に好ましいです。

もっとも、弁護士から見ると、インターネット上の情報は「情報過多」の状況になっているのではないか、と考えます。

あふれる情報の中から自分に必要な情報を取捨選択するためには、情報の価値を適切に見極める必要があります。情報の価値は、多数の情報を比較検討しなければならず、非常に膨大な時間が必要となります。

また、情報は常にアップデートされる必要がありますが、インターネット上の情報が常に最新の情報である保証はありません。

このように、ご自身で残業代を請求するには膨大な時間と労力をかける必要があります。

このような時間や労力は、弁護士に依頼をすることで大幅にカットすることができますし、獲得できる金額も大きくなる可能性は高まります。

逆に、弁護士に依頼をしても獲得できる金額が上がる可能性が低かったり、生じる弁護士費用分のメリットが生じない可能性が高いケースについては依頼をすべきではありません。

しかし、依頼するメリットがあるかどうかについての判断自体が難しいため、弁護士に相談されてみないことには分からないことがほとんどだと思います。

このような理由から、現在、残業代の請求を検討されている方は、まず弁護士に相談されることを強くお勧めします。

弁護士 森 圭
フォレスト法律事務所代表弁護士。これまで累計800件以上の労働問題に関するご相談を受けてきました。管理職、運送業、飲食店など、幅広い業種、業態の取り扱いがあります。残業代請求に関する情報を、豊富な経験をもとに、分かりやすく解説します。
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