「契約で労働時間は決まってるから、長時間働いても残業にはならない?」
「深夜も昼間も賃金の金額が変わらないのはおかしいのでは?」
警備員の仕事は、同じ警備員という名称であっても、仕事の内容や働く条件は様々です。
共通して言えることは、「拘束時間が長く、深夜や早朝に働くことが多い」ということだと思います。
警備員の仕事は、肉体的、精神的に厳しいため、一般的な仕事に比べると、賃金が高い傾向にあります。
しかし、法律に従って残業代が正しく支払われているかどうかは別の問題です。
警備員には、一般的な仕事と異なり、労働基準法が適用されない場合があります。
労働基準法が適用されないということは、どれだけ働いても残業代が発生しないことを意味しますから、どのような場合に適用されないかは非常に重要です。
このページでは、警備員の仕事のうち、労働基準法が適用される場合/適用されない場合を解説します。
ご自分がどちらの場合に当てはまるのかを確認しながら読み進めてみてください。
1 警備員は労働基準法が適用されない?
まず、残業代の一般的なルールから見ていきましょう。
労働基準法は「1日8時間、週40時間を超えて働かせてはならない」と定めています(労働基準法32条)。
この時間を超えて働いた場合、時間外労働(残業)として会社は割増賃金(残業代)を払わなければなりません。
残業代は、8時間を超えたところから、通常の賃金の1.25倍の賃金が発生します。
また残業が深夜に及んだ場合、通常の賃金の1.5倍の賃金が支払われることになります。
この一般的なルールですが、次の「適用除外」(労働基準法41条)に当てはまる場合には適用されない=残業代が発生しないことになります。
- 農業または水産業等の事業に従事する者
- 監督もしくは管理の地位にある者(管理監督者)
- 機密の事務を取り扱う者
- 監視または断続的労働に従事する者
警備員の仕事は、「監視または断続的労働」に当てはまる可能性があります。
もっとも、「監視または断続的労働」と言っても、具体的にどのような仕事を言っているのかはっきりしませんね。
そこで、「監視労働」「継続的労働」について詳しく見ていきます。
①「監視労働」とは?
そもそも、警備業務が「監視労働」に当たるかどうかについては、労働基準監督署が審査・判断をするという仕組みとなっています。
そして、労働基準監督署の判断基準は「警備業者が行う警備業務に係る監視又は断続的労働の許可について」という通達に記載されています。
この通達自体は長文ですが、要約すると以下の①~④を全てを満たす場合に当てはまるという判断をすることとなっています。
① 一定の部署で監視をすることを本来の業務とし、常態として(=平常時に)身体の疲労及び精神的緊張の少ないものであること
例として、「立哨により行うもの(立って警備を行うこと)」、「荷物の点検業務」、「駐車場で料金を徴収したり車両の誘導をする業務」などは、身体の疲労又は精神的緊張が少なくないため、許可の対象とならないものとされています。
② 勤務場所が危険でなく、また、その環境条件が温度、湿度、騒音、粉じん濃度等の点から有害でないこと(勤務場所が危険でなく、環境が有害でないこと)
③ 1勤務の拘束時間が12時間以内であること
④ 勤務と次の勤務の休息時間が10時間以上確保されていること |
なお、労働基準監督署は、会社の申請があって初めて、上記の審査を行います。
勝手に「監視労働に該当します」と判断することはありません。
会社が、「うちの会社の仕事は監視労働に該当するので、判断してください」と申請し、労働基準監督署が審査をするという流れです。
労働基準監督署が、監視労働に該当すると判断した場合に、労働基準法が適用されないこととなります。
よって、業務内容がどのようなものであっても、「そもそも会社が申請をしていない」ということであれば、原則どおり、労働基準法は適用される(残業代は発生する)ということです。
②「断続的労働」とは
次に、断続的労働についても判断の基準を見てみましょう。
① 常態としてほとんど労働する必要のない勤務であって
ⅰ 精神的緊張のないもの 例えば、空港や遊園地など警備対象が広大なもの、高価な物品が陳列されている場所の警備は許可の対象とならない。 ⅱ 警備の場所が危険でなく、その環境が有害でないこと ⅲ 巡視の回数が1勤務6回以下で、1回の巡視が1時間以内、その合計が4時間以内であること
② 1勤務の拘束時間が12時間以内(ただし夜間勤務中に継続して4時間以上の睡眠時間が与えられる場合は16時間以内)
③ 勤務と次の勤務の休息時間が10時間以上確保されていること |
なお、1日の中で断続的労働と通常労働が混ざっている場合、日によって断続的労働と通常労働が交互に繰り返されるような場合、「断続的労働」とは認められません。
2 監視または断続的労働の具体例
監視または断続的労働に該当する例として、次のような職種が考えられます。
- 役員専用自動車運転手
- マンション管理人
- 守衛
- 一部の警備員
- 学校の用務員
なお、このような業種であっても、「精神的、身体的緊張が高い業務」は、対象から外れます。
具体的には、
- 交通関係の監視、誘導を行う駐車場の監視
- プラント等における計器類常時監視する業務
- 危険、有害な場所における業務
のような業務は「精神的、身体的緊張が高い」と言え、労働基準法が適用されます。
このように、仕事内容や実態によって、通常の労働なのか監視断続的労働なのかの判断は異なります。
重要なのは、職種の名称や形式上の契約内容ではなく、実際にどのような働き方であったのか、という点なのです。
3 監視または断続的労働に当てはまる場合に請求できるもの
ご自身の業務内容が、監視または断続的労働に該当した場合、残業代の支払の対象とはなりません。
しかし、残業代支払いの対象外であったとしても、深夜労働に関するルール(通常の1.5倍の賃金)は適用されます。
そのため、22時から翌朝5時までの間に勤務していた場合は、深夜の割増賃金の支払対象となります。
もし、「深夜に労働したのに、昼間の1.5倍の賃金が支払われていない」ということであれば、不足部分の支払いを請求することができます。
4 監視または断続的労働に当てはまらなかった場合の請求
監視または断続的労働に当てはならなかった場合は、1日8時間週40時間を超えた部分について残業代を請求することができます。
警備員は1日の勤務時間が長いことが多いため、残業時間もかなり長くなることも考えらえます。
しかし、注意していただきたいのが、会社が変形労働時間制を採用していた場合です。
変形労働時間制が導入されていると、通常の残業代計算とは計算方法が変わってきます。
1日8時間以上を所定労働時間としている日があった場合、その所定労働時間を超えた部分からが残業となり、通常の8時間を超えても残業が発生しないことがあるためです。
5 まとめ
警備員の仕事は、労働時間が長く、深夜や早朝に働くことも多いかと思います。
業界内では、「警備員だから残業代は出ない」、「決められた労働時間内だから残業ではない」といった言葉が、まだまだ出回っているように思われます。
確かに、警備員の仕事が「監視・断続的労働」に当てはまるのであれば、法律上も残業代は発生しません(深夜割増のみ発生することになります。)
しかし、監視または断続的労働に該当するかどうかは、非常に曖昧で複雑な判断を含みます。
もし、ご自身の働き方が、監視または断続的業務に当てはまらないのではないか、通常業務も行ってるから対象外ではないか、と思われた方はぜひ一度弁護士にご相談ください。