遺留分を請求されたら|拒否・減額できるケースと対応手順

遺留分を請求されたら|拒否・減額できるケースと対応手順

ある日、身に覚えのない内容証明郵便が届く。開けてみると、相手方の弁護士の名前で「遺留分侵害額を請求する」と書かれている。

「親の面倒をみてきたのは自分なのに」「相手の方が生前に援助を受けていたのに」と納得できないお気持ちになるのも無理はありません。

このページでは、遺留分を請求された側ができることを整理します。結論を先にお伝えすると、支払いを完全に拒否できるのは例外的な場合に限られます。しかし、請求された金額を減額できる余地は十分にあります。

何を確認し、どう反論し、支払う現金がないときにどうするか。名古屋のフォレスト法律事務所が、請求を受けた側の立場から解説します。

目次

通知が届いたら、まず確認する3つのこと

届いた通知に慌てて返答したり、言われるままに支払いに応じたりする必要はありません。まずは次の3点を確認しましょう。

この段階で手順を踏まずに話を進めてしまうと、本来払わなくてよかったもの、あるいは減らせたはずの金額を、そのまま負担することになりかねません。

1 請求してきた人に本当に遺留分があるか

遺留分が認められるのは、配偶者、子(代襲相続人を含む)、直系尊属に限られます。兄弟姉妹には遺留分がありません(民法1042条)。

実際、兄弟姉妹の立場の方が遺留分を誤解して請求してこられる例があります。被相続人に子も直系尊属もいない相続では、まずここを確認してください。

また、相続放棄をした人、相続欠格に当たる人、廃除された人にも遺留分はありません。

廃除された人については戸籍にその旨が記載されますが、相続放棄や相続欠格については戸籍に記載がされませんので、家庭裁判所の証明書等で確認する必要があります。

誰が相続人なのかを戸籍で確認するところから始めます。

遺留分の仕組みそのものについては、遺留分のページで詳しく解説しています。

2 期限が過ぎていないか

遺留分侵害額請求権には期限があります。遺留分の請求をする人が、相続の開始と遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年、または相続の開始から10年です(民法1048条)。

いずれか早い方が到来していれば、請求に応じる必要はありません。

もっとも、争点になるのは「知った時」がいつかです。相手方が遺言の存在をいつ知ったのかは、相手方の側の事情ですので、こちらから立証するのは簡単ではありません。特に、相手と被相続人が疎遠であって、相手方が被相続人の死亡の事実を数年経ってから知ったとしても不自然でないような場合は注意が必要です。

通知に書かれた日付と、相続開始からの経過期間は必ず確認してください。

3 請求額の計算根拠が妥当なものか

届く通知書に請求金額が記載されているものの、その根拠が明らかにされていないことがあります。

どの財産をいくらと評価し、どの生前贈与を加算し、どのように侵害額を算出したのか、根拠の開示を求める必要があります。

次で見るとおり、相手方の計算には争える点が含まれていることが多く、計算根拠を把握しておくことは有用です。

支払いを拒否できる可能性があるケース

遺留分を請求されたときの2つの反論。支払義務が消えるケースと金額が下がるケースの対比

「遺言で全部もらったのだから払いたくない」という理由では拒否できません。

そのうえで、次のいずれかに当たるのであれば、支払いを拒む余地があります。

請求者が遺留分権利者ではない

前述のとおり、兄弟姉妹には遺留分がありません。請求してきた人が被相続人の兄弟姉妹であれば、支払う義務はありません。

相続関係が複雑な場合、請求者本人も自分に遺留分があると信じていることがあります。戸籍で相続関係を確定させたうえで、その旨を回答することになります。

期限が経過している

1年または10年の期限が経過していれば、請求は認められません

ただし前述のとおり、1年の起算点である「知った時」の認定は争いになりやすい部分です。相手方が「遺言の存在を知ったのは最近だ」と主張してきた場合、こちらがそれを覆すのは容易ではありません。

相続開始から10年が経過しているのであれば、こちらは相続開始日を示せば足りますので、より確実な反論になります。

請求者が相続欠格・廃除に当たる

被相続人を死亡させた、遺言書を偽造・破棄したといった事情があれば相続欠格となり、相続人の資格を失います(民法891条)。また、生前に被相続人が家庭裁判所に申し立てて廃除を認められていた場合も同様です。

ただし、廃除の要件は虐待や重大な侮辱といった厳格なもので、関係が悪かったという程度では認められません。生前に廃除の審判を得ていなければ、相続開始後に主張することは原則としてできません。

生前に遺留分を放棄している

相続開始前に遺留分を放棄するには家庭裁判所の許可が必要です(民法1049条1項)。許可を受けた放棄があれば、その人は遺留分を請求できません。

被相続人が生前に整理していた資料の中に、許可の審判書が残っていないか確認してみてください。

請求者が相続放棄をしている

相続放棄をした人は初めから相続人でなかったことになりますので、遺留分もありません。家庭裁判所で相続放棄申述受理証明書を取得すれば確認できます。

相続放棄は家庭裁判所の手続を踏む必要がありますが、このような手続を経ることなく、口頭で「相続を放棄した」と言われる方も少なくありません。
口頭で「放棄した」と言っても、法的には相続放棄に該当しませんので、相続放棄の有無は家庭裁判所の書類で確認する必要があります。

請求額を減額できる可能性があるケース

実務では、支払いを完全に拒否できる場面より、金額を減らせる場面の方がはるかに多いというのが実感です。

相手方が提示してくる金額は、相手方に有利な前提で計算されていることが少なくありません。以下の4点は、特に争える余地が大きい部分です。

不動産の評価額が過大に見積もられていないか

主な遺産が不動産であれば、その評価額によって請求額が大きく変動します。

不動産の評価額は、不動産の「時価」をいいますが、相手方は高めに出た査定書を1通だけ添えてくることがあります。

まず、複数の不動産業者から査定書を取得し、価格の幅を把握します。そのうえで、査定の前提条件を確認します。土地の形状や接道条件、建物の築年数や状態が正しく反映されているか、近隣の成約事例と比べて高すぎないか等を検討します。

双方の主張額が大きく離れて折り合えない場合は、不動産鑑定士による鑑定に進むことになります。ただし鑑定には費用と時間がかかりますので、争っている金額の差が鑑定費用に見合うかどうかを踏まえて判断する必要があります。

請求者自身が受けた特別受益が差し引かれているか

請求してきた人自身が、生前に被相続人から援助を受けていることは珍しくありません。住宅の購入資金、事業の開業資金、留学費用といったものです。

こうした特別受益にあたる贈与を受けているのであれば、その分は遺留分侵害額から差し引かれます(民法1046条2項)。

しかし、相手方から届く計算書では、この差引がされていないことが実際によくあります。

心当たりがあれば、送金の記録や不動産の登記の履歴を確認してください。

被相続人の債務が考慮されているか

遺留分を算定するための財産の価額は、相続開始時の財産に一定の贈与を加え、そこから債務の全額を差し引いて計算します(民法1043条1項)。

被相続人に債務が残っていた場合、それを差し引かずに計算されていれば、請求額は過大になります。住宅ローンの残債、事業用の借入れ、未払いの医療費や施設利用料などが典型です。

通帳や督促状、返済予定表などを確認し、相続開始時点で残っていた債務を洗い出してみましょう。

生前贈与の算入範囲が正しいか

どこまで遡って生前贈与を加算するかにはルールがあります(民法1044条)。

  • 相続人に対する贈与……相続開始前の10年間にされたもののうち、婚姻や養子縁組のため、または生計の資本として受けたもの
  • 相続人以外に対する贈与……相続開始前の1年間にされたもの

相手方が、20年前や30年前の贈与まで含めて計算しているケースがあります。原則として、その期間の贈与は加算されません。

ただし例外があり、贈与した人と受け取った人の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与した場合には、期間の制限なく加算されます。この点を相手方が主張してくることもありますので、贈与当時の事情を整理しておく必要があります。

請求を無視するとどうなるか

「返事をしなければ、そのうち諦めるのではないか」とお考えになる方がいらっしゃいます。しかし、放置して事態が良くなることはありません。

請求に応じない場合、相手方は家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。調停でも話がまとまらなければ、地方裁判所に訴訟を提起します。

訴訟でこちらが出席しなければ、相手方の主張がそのまま認められた判決が出る可能性があります。判決が確定すれば、預金や不動産、給与の差押えを受けることもあります。

支払いが遅れた期間について遅延損害金が加算されるため、放置した期間が長いほど、最終的な負担は増えてしまいます。

このように、請求を無視することによって生じる不利益は大きいため、請求内容に納得できないのであれば、無視ではなく、反論という形で対応することが必要です。

支払う資金が足りないときの手段

遺留分侵害額は金銭で支払わなければなりません。しかし相続したのが実家の不動産だけで、手元に現金がないという方は非常に多くいらっしゃいます。

自宅を売却するしかないと思い込む前に、次の手段を検討してみてください。

裁判所に支払の期限を与えてもらう

支払義務を負う側は、裁判所に対して、支払について相当の期限を与えるよう求めることができます(民法1047条5項)。

認められれば、その期間内に資金を準備できます。すぐに全額を用意できないという一点だけで不動産の売却を迫られる、という事態は避けられる可能性があります。

分割払いを交渉する

裁判手続によらず、任意の交渉の中で分割払いに合意することもできます。相手方としても、一括で回収できなくとも確実に回収できる方が良いと考えることは多く、現実的な着地点になりやすい方法です。

合意する場合は、支払回数、期限、遅れたときの取扱いについて、合意書面を作成しておくことが一般的です。

請求者が承継する債務を引き受ける

被相続人に債務があった場合、相手方もその一部を相続によって承継しています。この債務をこちらが引き受けることで、支払うべき侵害額と調整するという方法も考えられます。

ただし、債務を引き受けるにあたっては、債権者の承諾など満たすべき要件がありますので、相続人間のみで手続が完結するものではありません。

不動産を売却する場合の進め方

他の手段で対応できず、最終的に売却する場合もあります。

このとき注意したいのは、期限に追われて急いで売ると、相場より安い価格で手放すことになりやすいという点です。まずは期限の許与や分割払いで時間を確保し、そのうえで売却活動に入る方が、結果として手元に残るお金は多くなります。

売却の段取り、業者の選び方は分かりにくいものです。何度か不動産取引を行った経験がある方でない限りは、不動産取引に精通した弁護士に相談することをお勧めします。

自分ひとりで全額を負担するとは限らない

遺言や生前贈与で財産を受け取った人が他にもいる場合、負担の順序が法律で決まっています(民法1047条1項)。

まず、遺贈を受けた人が先に負担します。遺贈を受けた人が複数いるときは、原則としてそれぞれが受け取った価額の割合に応じて按分します。遺言に別段の定めがあれば、それに従います。

遺贈だけでは足りない場合に、生前贈与を受けた人が負担します。贈与が複数あるときは、時期の新しい贈与を受けた人から順に負担していきます。

つまり、自分が受け取った財産の割合を超えて負担する必要はありませんし、他にも受け取った人がいるのであれば、負担は分散されます。

「自分だけが請求されているのは不公平だ」と感じておられる場合、実際に負担の分担を主張できることがあります。

調停・訴訟を申し立てられたときの対応

交渉がまとまらないと、相手方は家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。ある日、家庭裁判所から申立書と期日の呼出状が届きます。

調停は話し合いの手続ですので、いきなり判断が下されるわけではありません。調停委員を介して双方が主張を述べ、合意点を探ります。こちらの言い分を述べる場でもありますので、請求額のどこに納得できないのかを、資料とともに整理して臨むことが大切です。

呼出状を無視して欠席し続けると、調停は不成立となって訴訟に移行します。訴訟では欠席の不利益がより大きくなりますので、出席できない事情があるなら必ず裁判所に連絡してください。

ご自身が名古屋市内にお住まいであれば、申立先は名古屋家庭裁判所になります。第1回の期日は申立てから1か月半ほど先に指定されることが多く、その後の期日は1か月から2か月ごとに入ります。

調停が不成立となれば、相手方は地方裁判所に訴訟を提起します。訴訟では、遺産の範囲、不動産や株式の評価額、生前贈与が加算対象にあたるかが主な争点になります。

訴訟では、主張を裏づける証拠の有無が重要となりますので、調停の段階から訴訟を見据えて準備を進めておくことが重要です。

請求された側の対応でフォレスト法律事務所ができること

通知を受けた段階でご相談いただければ、まず相続関係と期限を確認し、そもそも支払義務があるのかを見極めます。

支払い自体が避けられない場合、支払い額の減額ができないか検討します。不動産の評価が過大でないか、相手方自身の特別受益が差し引かれているか、債務が考慮されているか、生前贈与の算入範囲が正しいか。当事務所は、弁護士のほか司法書士、宅地建物取引士、証券外務員一種の資格を持っており、不動産取引を伴う事案の取り扱いも数多くあります。

不動産評価が争点となる場合、不動産の売却が必要となる場合は、過去の経験を基に対応することが可能です。

請求された側の弁護士費用

請求する側の事件は、取り戻した金額を基準に報酬を算定するのが一般的です。これに対し請求を受けた側の事件では、減額できた金額を基準に考えることになります。

請求額が1,000万円のところ600万円で解決できたのであれば、400万円の経済的利益があったものとして算定するという考え方です。

遺留分を請求された場合によくある質問

遺留分の請求を無視したらどうなりますか。

調停、訴訟へと進み、判決が出れば預金や不動産の差押えを受ける可能性があります。遅延損害金も加算されます。内容証明の受け取りを拒否しても手続の進行は止まりません。納得できない場合は、無視ではなく反論で対応する必要があります。

遺留分の支払いを拒否できますか。

請求者が兄弟姉妹である、期限が経過している、相続放棄や家庭裁判所の許可を得た遺留分の放棄をしている、といった例外的な場合に限られます。「遺言でもらったのだから払いたくない」という理由では拒否できません。

請求された金額が高すぎると思うのですが、争えますか。

争える可能性はあります。不動産の評価額、請求者自身の特別受益、被相続人の債務、生前贈与の算入範囲は、いずれも相手方の計算に誤りが生じやすい部分です。まず計算根拠の開示を求めてください。

現金がなく不動産しかありません。家を売るしかないのでしょうか。

すぐに売却を決める必要はありません。裁判所に支払の期限を与えてもらう制度(民法1047条5項)、分割払いの交渉、相手方に対する債権との相殺など、検討できる手段があります。時間を確保してから売却する方が、結果的に手元に残る額は多くなります。

介護をしてきた分は考慮されないのですか。

残念ですが遺留分の計算に介護の負担がそのまま反映される仕組みにはなっていません。ただし、被相続人がその貢献を踏まえて遺言を作成した経緯は、交渉や調停の場で説明する意味はあると考えます。

公正証書遺言があるのに、なぜ遺留分を払うのですか。

公正証書遺言も、遺留分を排除する効力までは持ちません。遺言自体は有効ですが、遺留分を侵害された相続人は、その分を金銭で請求できる仕組みになっています。遺言の種類によって結論は変わりません。

相手方に弁護士がついていますが、自分も依頼すべきですか。

相手方に代理人がついている場合、こちらだけで対応すると主張の組み立てや資料の評価で不利になりやすいのが実情です。特に不動産の評価や特別受益が争点となる事案では、早い段階でご相談されることをお勧めします。

遺留分を請求された側の弁護士費用はいくらですか。

減額できた金額を経済的利益として算定する考え方が一般的です。ご相談時に、見込まれる減額幅と費用の概算をお伝えします。

まとめ

遺留分を請求された側にできることは、決して少なくありません。支払いを完全に拒否できる場面は限られますが、請求額を検証すれば減らせる余地はしばしば見つかりますし、支払方法を工夫することで不動産を手放さずに済むこともあります。

一方で、放置だけは事態を悪くします。遅延損害金が積み上がり、最終的に差押えという形で強制的に回収されることになります。

通知が届いた段階でご相談いただければ、取りうる手段は最も多く残っています。まずはお気軽にご連絡ください。

遺留分の仕組みや割合、計算方法については、遺留分のページで詳しく解説しています。

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